コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 一瞬またたき。 ( No.9 )
日時: 2010/07/28 17:50
名前: 蒼莉 (ID: ykFYs.DE)

4.優しい夢 gentle a dream




優しい夢を見ていた。

誰かの大きな手に

包まれている夢。

その手は

温かくて

…優しくて。

その手が誰のなのか

覚えはあった気がする

けどその名を

私が呼ぶことは

、なかった。









あの日、あのとき

あの場所にいなければ

こんなことにはならなかったのだろう。

けどあの場所から

私が逃れることなんて

出来もしなかったのだろう。






——ミーンミンミンミーン…




五月蠅い蝉の声。

だとは思わなかった。

蝉も皆、一生懸命、今を生きてるんだ

そんな綺麗事も思いつかなかったけど

夏の風にあおられ

太い樹木につかまって

精一杯自分の場所を伝えている姿に

私は心を打たれたのかもしれない。




およそ10年前。

7歳だった私は、

その長い漆黒の髪を

サラサラと風になびかせながら

暑い暑い夏の日差しのもと

庭のベンチに座って

本を読んでいた。

我ながらに大人びた少女だったと思う、

私は本が大好きで

その当時から500㌻はある

分厚いハードカバーの本を

軽々と読んでいた。

遊び盛りの

7歳…小学校1、2年の当時

友達と外で滅多に遊ばず

いつも家の庭のベンチに座って

大好きな本を読んでいた。


そんな変わった姉のもとに


「かづお姉ちゃん」



「冬花」





大好きな弟の冬花が

駆け寄ってくる。

その様子に私は頬を緩ませ、

冬花の頭をポン、と撫でた。

すると冬花は嬉しそうに笑って

私の横に、座るのだった。


双子、と言っても

私が姉。

そういう意識が他の誰よりも強く、

私は冬花を溺愛していたかもしれない。

冬花はその当時体が弱く

いつも家で大人しくしている

ばかりだった。

年齢、そして男の子ということもあって

遊びたい気持ちが、高ぶっているにも

かかわらず

冬花は一人、

私の側で

私の読んでいる本を

盗み見するのだった。