コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Random every day!! ( No.28 )
日時: 2010/08/21 17:06
名前: 勿忘草 (ID: TtH9.zpr)

 

 003 気がつけば喧嘩は始まっている。




——疲れた。

それが今の郁奈の心情。
福田と別れた後、廊下でクラスメイト数名と出くわし(とうより、待ち伏せされていた)、
“見かけによらず、結構やるな!!”と称えられた。
僅か3日で、ちょっとした有名人に成り上がってしまったのだ。

「・・・・・・、ありえない」

郁奈があんな風に感情的になるのは、怒ったときだけだ。
自分の何かを、傷つけられた時だ。
先程の成夏は、郁奈の“義務”に傷をつけた。
いつもいつも、皆が見た“郁奈”で居られるとは限らない。

——皆、すぐに飽きるよね、こんな事件[コト]すぐに忘れるよね。

少しだけ寂しい気もしたが、郁奈は皆の記憶が早めに薄れることを願った。



「おーっし、委員決めるぞー、まずは学級委員な」



そうこうしている間に、3校時目が来たようだ。
森川が、綺麗とも汚いとも言い難い字で、黒板に書く委員を書いていく。
書き終えると、1人1枚髪を配る。
どうやら、学級委員は選挙で決める様だ。
クラス中がざわめき、「誰にする?」、という様な会話が聞こえてきた。
郁奈はふいに、重川有紗を見た。
有紗もまた、郁奈を見ている。


「(誰にする?)」


口パクで、有紗は郁奈に尋ねる。


「(だれでもいいや、しげちゃんにする)」


郁奈も口パクで答えると、有紗は納得いかない、という表情。



——重川有紗



彼女は、このクラスで唯一の郁奈の“仲良しなトモダチ”で在り、郁奈の所属する美術部の部長である。
何も気にせず自分の意見が言える、腐れ縁だ。
郁奈に言わせれば、
“我が強くて意地っ張りでそのくせ泣き虫で、人の話をろくに聞かない”、扱いづらいタイプなのだが。
整った顔立ちと、明るく楽しい性格が良い感じにカバーしている様だ。




そんな彼女は、何故か人に支持される。




「ん、それじゃぁ、学級委員は山中と、重川な」

森川は決定事項を黒板に書く。

「えぇ、ウチ?! マジで?!」
「重川、キャラじゃねぇだろ!!」
「なんで俺・・・・・・」

有紗の周りが、にわかに騒がしくなる。
“キャラじゃない”、1人の男子がそう叫んだが、郁奈はそうは思わない。

——ほら、やっぱり。

なんだか、誇らしげな気分だ。
愛されキャラな有紗は、皆から信頼を得ているようだ。
自分の意見を率直に言って、それでも皆が付いてくる。
そんな有紗が、少しだけ羨ましい。

(私はどーしよっかなぁ・・・・・・)

今朝、風紀委員に立候補しようとココロに決めたが、少しだけその決心は揺らいでいる。
どうしようもなく、不安なのだ。
成夏に喧嘩を売って、妙な展開になった。
それはもう、仕方のないコトで在り、気にしていないのだが——
頭に血が上った時、
自分は、誰彼構わず、手を挙げてしまうかも知れない。


——暴力女だと思われるのだ後免じゃ


郁奈はため息を付いて、伏せった。
しばらくして森川が、大きな声を出す。

「風紀委員決めっぞ!! 立候補でも推薦でも、スキにしろー、学級委員」

そんな丸投げなセリフで、森川は全て学級委員に任せる。
少しばかり緊張の顔色で、有紗と山中が黒板の前に立つ。
山中は有紗に、「俺が司会するから、書記やって」、と呟いて、有紗は「おぉ、」と言って頷いた。


「そんじゃ、風紀委員、立候補でもなんでもいーから、手ぇ挙げて」


郁奈は伏せっていた身体を起こし、前の2人を見る。

——なんだか、山中って人、先生とにてるなぁ

呑気そうなトコロとか、気怠そうなトコロとか。
普段、どんな目で森川を見ているのだろうか。
そんなことを考えているうちに、1人の手がスッと上がった。

——あ、やばい、先超された。

郁奈はそう思った瞬間、




「推薦なんですけど、女子は越智さんが良いと思います」




——はいぃぃぃぃ?!

クラス中から、納得の声が聞こえてきた。

「適役だな」「ってか、アイツしかいないってゆーか」「他に誰やるんだよ、」「男子誰?」
「福田?」「そりゃねぇだろ」「殺される殺される」

口々に聞こえる、あんな声やそんな声。
自分の話題なのに、1人取り残される郁奈。

「賛成ばっかだな。 女子決定ってことで」

山中は本人に確認することもせず、「書いて」と有紗に頼む。
なんの違和感もなく、決まっていく。
本人を残して。


「ちょちょちょちょ、待って、おかしい、なんっかおかしいよ?!」


ようやく言葉を発する郁奈。
全員の視線が注がれた。
今気がついたが、森川は何故かご機嫌だ。

「異義?」

山中が尋ねる。

「否、なんて言うか、その、」
「何」

貫くような視線が、怖かったり。
見下ろすようなその視線は、何故か貫禄があった。

——さすが、竜南喧嘩№1。

郁奈はココロの中で呟く。
山中は視線で相手倒すって聞いた。
そんな視線に耐えつつ、郁奈は口を再度開いた。



「・・・・・・何で、私?」



どうやら、凄く愚問だったようだ。
勇気を振り絞った質問だったのに、皆爆笑。

「ちょ、越智さん、」

前の席の安住由理子が、笑いながら振り返る。
“安住”と“越智”で、出席番号順だとかなり離れているが、森川の場合、初日にスキな席を選ぶ。
由理子は可愛らしい顔で笑っている。

「な、何?」

郁奈は、遠慮がちに訊く。
彼女と話すのは、初めてだったりする。

「“何で私?”って、もうアンタしかいないでしょ」

それがどうしてか解らんないんだけど、と突っ込みそうになったが、由理子の言葉は続く。


「ナルくんに喧嘩売ったんだからさ、不良の面倒見なくちゃ」


——ナルくん? あぁ、福田か、

由理子の言葉を認識するまで、少し時間が掛かったが、そんなことはどうでもいい。
その言葉で、全ての謎が解けた。

「あ、そーゆーこと・・・・・・」

一気に力が抜ける。

「良い? 越智」

山中に再度問われる。
今度は、頷くしかなかった。


「んじゃ、次ー」


郁奈は机に伏せる。

——なんか今日、すっごい疲れた。

男子の風紀委員は、豊田だそうだ。
郁奈にとってはどうでも良かった。
頭に、福田の顔と台詞がリピートされる。
あの時、自分は喧嘩を売っていたのだ。


——喧嘩、もう始まってるんだ。





——私と福田の喧嘩、始まってるんだ。





そんなことを、改めて確認し、大きなため息を漏らした。