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Re: Random every day!! ( No.39 )
日時: 2010/08/29 12:06
名前: 勿忘草 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)

 

 005 喧嘩にもルールは必要です。




福田成夏の、越智郁奈への奇襲から1日。
翌日の朝、決意を胸に郁奈は家を出て、現在校門の前。
今日の作戦。
というよりも、目標?



—————宣戦布告。



喧嘩を売った=宣戦布告、とは限らないと思う。
いつの間にか始まっていた喧嘩。
それでは、何時どっちが勝ったか、が解らない。
だから、今日開始線を引く。
正々堂々、勝敗を決めようじゃないか。


「おはよぅ、郁奈」


校門の前に仁王立ちをしていると、有紗に声を掛けられた。

「教室入らないのか??」

有紗は、相変わらずの男言葉。

「うん、ちょっとね。今日は大事な儀式するの」
「はぁ?」
「しげちゃんには、全然関係ないからさ、先に教室で遊んでてよ」
「否、“儀式”とか言われたら、気になるだろ」

まったく話の読めていない有紗を、無理矢理説得して、教室へ追いやる。
再び門へ戻ってくると、和紀や弥、大和と出くわした。
有紗と同じような反応を、それぞれ取ったが、同じように先に行って貰う。


時刻は、8時25分。


さすがに、校門を通る者が少なくなっている。
門を通る者は皆、遅刻した、という表情で後者へ向かう。
郁奈は待っていた。
福田成夏を。

——遅刻は、絶対にしない。

それは、譲れません。

——だけど、宣戦布告をしなくちゃ。

それも、譲れない。

1分1秒が、長く長く感じられる。
8時27分。
視力の良くない郁奈にも、はっきりと解った。
奇麗な明るい茶色に染まった髪に、乱れた制服。


——福田だ。



「福田成夏——!!!」



思わず、フルネームで叫ぶ。
ビクッと、身体を強ばらせたのが確認できた。
どうやら、先生か何かかと思った様。

「もう27分だっつーの、遅刻するよ!!」
「・・・・・・ッチ、風紀委員か」
「風紀委員じゃありませんー、越智郁奈っていう名前が在りますー」
「相変わらずムカツク野郎だな、この野郎」

今日はトコトン、口喧嘩で仕返ししようと思っていたのだ。

「野郎じゃないです、女の子です」
「平手打ち打つ女がいるかよ」
「しげちゃんは常にグーパンチです」

なんだか今日は、郁奈が優勢。
朝は弱いようだ、福田成夏。

「ところで、さ」

郁奈は不敵な笑みを浮かべる。

「なんだ」

不機嫌そうな成夏。
正反対に、ニコニコしている郁奈。
そして、そんな表情とは裏腹な行動。
背伸びをしたかと思うと、成夏の額に思いっきりデコピンをたたき込む。

「?! 痛ッ 何だ、お前」
「———宣戦布告」
「はぁ?!」
「私、ちゃんとルール考えてきたの」

10㎝以上背に差があるであろう2人だが、郁奈の賢明な背伸びのお陰で、目線がピッタリ。

「ルール、だと?」
「ほら、喧嘩にもルールっていると思って」

不良で在るなら、まず考えないことだ。
やっぱり郁奈は真面目な部類なのだろう、と成夏は思う。
だが、真面目部類では在るが——、確実に今までの“ただの真面目”とは違う。



「私がアンタを、教室のアンタの席に1日座らせたら、私の勝ちね」



「はぁ?」

郁奈の不敵な笑みは、そのまま。
それまでピッタリ合っていた視線が、急に下へ下がる。
背伸びを止めたようだ。

「それがルール。 カンタンでしょ」

それだけ言うと、昨日と同じように成夏の手首を掴む。

「今日からスタートだよ」
「テメぇ、離せ!!」
「嫌」




「遅刻、しちゃうでしょーが!!」




呆気に取られ、気がつけば教室。
気がつけば、あろう事か、HMに普通に出ていた。
極々自然に、森川の話を黙って聞いている自分が情けなくなり、口を開く成夏。

「おい」

成夏は郁奈を呼ぶ。
郁奈は、吃驚した様に目を見開いていた。

「何?」
「さっき、ルールとか何とか言ってたが・・・・・・、勝った方には、何かあんだろーが」
「へ?」
「何か、景品がいるだろっつってんだよ、バカ」

そこまで考えていないかった、と言う間抜け面をしてみせる郁奈。
動物に例えると、———ラッコ?


「・・・・・・ラッコ」


その小さな呟きを、郁奈が聞き逃す筈もなく。

「ラッコ、て何」

冷めた表情で訊く。

「今日からお前、ラッコだ」
「はぁ?!」
 「ラッコ、俺の分の宿題しろ」
  「ちょ、待て、何それ、ラッコ?!」
「ラッコ煩ぇ」
   「おいコラ待てこの、毛玉」
「・・・・・・、誰が毛玉だラッコ」
     「お前が毛玉だ、毛玉」

——何コイツ?!

急に、成夏は郁奈を“ラッコ”と呼び始める。
その由来が何かなんて、知るよしもない郁奈は、腹いせに“毛玉”と呼ぶことにした。
由来は勿論、成夏の髪の毛だ。
昨日家で見た毛玉に、そっくり。


「黙れ、成夏、越智」


森川の声で我に返り、いつもの大人しい郁奈になる。
それを不思議な動物でも見るような瞳で見る、成夏。
なんだか、胸の奥がざわつくのを感じていた。

——面白ぇよ、ラッコ。



「決めとく」



郁奈は今度は小声で言葉を紡ぐ。

「あ?」

此方の声は、さっきと同じ。

「喧嘩の景品、考えとく」
「下らねぇモンだったら、殺すぞ」

——その後埋めるの??

そう訊こうと思ったが、口に出せば本当に埋められそうな気がして言わなかった。



さぁ、引かれた。
開始線は、引かれた。
此処から始まるのは、喧嘩だけじゃないかもしれない。



——————



「始業式から、もうすぐ一週間ですね」

兼田優衣子は、コーヒーカップを森川の机に置きながらいう。

「あぁ、そうですね。どうかしましたか??」
「とぼけちゃって。本当は分かってらっしゃる癖に」
「ははは、何でもお見通しッスね。兼田せんせ」

森川は、ふぅ、とため息を溢す。
そして、口角を上げる。

「上出来、じゃないですか??2日続けて、HMに参加してましたよ、成夏」

兼田は少し、驚いた、という表情をしてみせる。

「へぇ・・・・・・、彼女頑張ってますね」

コーヒーを一口飲む。
森川は機嫌良くに言った。



「郁奈は・・・・・・、普通のコとは違いますから」



兼田は、その時、少しだけ違和感を感じたのだが———、結局それが何なのか解らなかった。