コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Random every day!! ( No.37 )
- 日時: 2010/08/24 13:33
- 名前: 勿忘草 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
004 風紀委員は部活も真面目に。
3年E組の教室を出て、廊下を渡って北館へ。
中館、南館、東館と在る、大きな竜南中だが、取り分け此の北館が、1番古い。
その北館の、階段を上り右へ曲がると、そこには郁奈の居場所が在る。
郁奈は、第2美術室の前にいる。
トビラには、幾つもの“ようこそ美術部へ!!”という勧誘のポスター。
その効果は薄く、年々、入部者は減っているとか。
郁奈はトビラを開いた。
「お!! 郁ぅぅぅぅう!!」
飛び付いてくる、ツインテールの少女。
郁奈は押し倒された。
「・・・・・・、重いんですが」
「郁!! 久しぶり、なんか久しぶりだよね!!」
「部活がなかったからね、春休み開けてから」
「そだね!!」
このハイテンションな少女、薮内和紀だ。
男の子の様な名前だが、一応女の子。
「カズ、いい加減中に入れて」
カズ、それが彼女の愛称。
「あ、メンゴ」
和紀は笑いながら郁奈の上から移動する。
教室と同じように並べられた机。
もっぱら、部員はその後ろのスペースで、自由に絵を描いたり、コンクール用のを描いたりしている。
「あ、絵書いてたんだ」
「うん、海賊王」
「あ、そ」
郁奈は半ばあきれ顔で返事をする。
和紀は、自由に描いていたようだ。
前に有る紙を見ると、某漫画の海賊達が。
(上手いな、そっくり)
「いつ見ても上手いねぇ」
郁奈は思ったことをそのまま声に出す。
和紀はニコリ、と笑って。
「愛故です」
と、一言。
「あ、そう」
郁奈はまたしてもあきれ顔。
いつものことだ。
薮内和紀は、大の漫画好き。
特に少年漫画を溺愛していて、週刊ジャンプはバイブルらしい。
標準よりもワンサイズ小さい彼女は、有紗とはまた別の意味で愛されキャラ。
郁奈も、和紀に頼まれればなんとなく引き受けてしまう。
だからと言って、「二次元に連れて行って」と頼まれても、聞いてあげられないのだが。
「なんども言うように、私はスポーツ漫画の方がスキなの」
郁奈は和紀に言う。
なんだかんだで、郁奈も結構漫画好き。
「ふぅん、僕も好きだけどさぁ、やっぱコレでしょ」
和紀の一人称は、僕。
そう言いながら和紀は、漫画を出して読み始めた。
すると、美術室のトビラが開いた。
「ちっす、」
やって来たのは、2年生の奥山大和。
「あ、」
「越智センパイ、薮内センパイ、来てたんッスか」
「奥山!! 久しぶりぃ」
和紀は嬉しそうな顔をして飛び付く・・・・・・、訳にもいかないので、腕を持ち近くまで引っ張ってきた。
大和は、2人の間の椅子にストン、と座る。
「あれ、部長は?」
部長で在る有紗がいないことに気がつき、大和が尋ねる。
答えたのは、郁奈だった。
「あぁ、なんか委員で決めることがあるってさ。 アイツ、学級委員だから」
「へぇ、センパイらしいッスね」
「だよね」
「あ、越智センパイは、風紀なんスか」
名札に付いているバッチを見て、大和が言う。
郁奈は苦笑。
「え、あ、うん」
ぎこちない郁奈の態度に、大和は首を傾げたが特に気にしていない様子。
——不良と喧嘩して風紀になった、なんて言えない・・・・・・
郁奈は心中で呟く。
秘密事をしている様で、少しだけ息苦しい。
「俺もッス、風紀」
ほら、と大和は可愛い笑顔を見せる。
それに郁奈が、きゅん、となったのは言うまでもない。
「偶然だね、良かった知り合い居て」
胸の高鳴りを誤魔化して、郁奈は微笑む。
整った顔、可愛い笑顔、そして優しい声。
たった1人の後輩は、3年女子が大いに可愛がっている。
テニススクールに通っているが、此の学校に“硬式テニス部”がないため、美術部にやって来たのだ。
郁奈達(特に和紀)は、テニス部がないことに凄く感謝している。
「俺も良かったです。 クラスの風紀の女子、全然知らない奴なんで」
——こんな顔してたら、やっぱりモテるんだろうなぁ
同じ学年ではないので、詳しいことは知らないが。
郁奈はそう確信している。
——やっぱり、付き合うならこんな人が良い。
こんな風に、気軽に話せる人。
気軽に話せない、強面の人なんてもっての他だ。
——あ、嫌なこと思い出しちゃった。
強面、で思い出す、彼。
茶髪のムカツクアイツ。
「郁?」
和紀に名を呼ばれ、郁奈は我に返る。
完全に、頭の中で今日の出来事がリピートされていた。
「な、何?」
「否、手が止まってたからさ」
「あ、そう、だった?」
和紀が頷く。
郁奈は気を付けよう、とココロに決めた。
あんまり、成夏とのことを知られたくない。
何故かは、解らないが。
——後でしげちゃん、口止めしとこう。
有紗は、今日の一連の出来事を全て知っている。
——すぐペラペラ喋るんだから。
そう思ったのもつかの間。
「聞け!! 今日、郁奈すっごかったんだぞ!!」
トビラの開く大きな音がした。
その場に経っているのは、有紗。
男の子の様な口調で喋る。
いつの間にか、会議とやらは終わっていたらしい。
「何々、」
「何かあったんスか」
2人が食いつく。
——あ、やばい。
口止めする間もない。
「ちょっと待ってしげちゃん!!」
郁奈の叫びは虚しく響く。
「郁奈さぁー、不良に喧嘩売ったんだよ!!」
笑顔の有紗。
嫌味も悪気も、全くない。
だからこそ、攻められないワケで。
「・・・・・・、バカ」
和紀と大和、同時に郁奈の方を振り向く。
「喧嘩? 殴り合い? 殴り合い??」
「すっごいじゃないスか、センパイ」
なんだかすっごい誤解を招いている気がするのは、郁奈だけだろうか。
「否、そーゆー喧嘩じゃなくってさ」
「あの福田にさ、“更正させてやる!!”って啖呵切ったんだよ!!」
「しげちゃんっ」
——アンタはまた、余計なことを!!
そう言いかけると、和紀が飛び付いてきた。
故に、郁奈の言葉はまたしても遮られる。
「それじゃぁ、余計にすごいよー!! ね、聞かせて聞かせて!!」
この笑顔。
この満面の笑みに、郁奈はいつも負けてしまう。
「・・・・・・、そんな、大したことじゃないよ」
そう言い、郁奈は仕方なしに話した。
今日の一連の出来事を。
話し始めれば特に後悔はなく、「これで良かったかも」と思い始めていた。
—————————刹那。
「ふーん、いきなり自慢話たぁ、驚いたよ。 風紀委員」
郁奈は悟る。
武術室は2階で、郁奈は窓際に座っていた筈なのに、後ろから聞こえてきた声。
まだ振り向いてはいないので、顔を確認したワケではないが———、
今窓から部屋を覗いている声の主は、おそらく今自分が1番嫌いな人間だろう、と。
「福田、成夏・・・・・・」
振り向かず、名前だけ呟いた。
「へぇ、声だけで解るんだ? 風紀委員さんよ」
「何で、知ってるの。 私が風紀だって」
郁奈はまだ、成夏の顔を見ようとはしない。
成夏はそれを全く気にしてはいなかった。
そんな光景を驚いているのは、周りの美術部員たちだ。
何か言いたげな表情で大和が成夏を睨んだのを、郁奈は見た。
「なんでって、さっきお前が言っただろ、そこの奴に」
そこの奴、とは和紀のことだろう。
郁奈は大きくため息を付く。
「暇人だね、1度此処から逃げていった癖に、放課後になって戻って来るなんて」
精一杯の、皮肉。
「授業中と放課後とじゃ、違うんだよ。 分かんねぇか」
それをあっさりと避けて、呆れたように言う成夏。
呆れてるのは、こっちだ。
「さっぱり解らない、解りたくもない」
「訳の分かんねぇ部活なんかに、熱くなってる奴らを見るのは、楽しいぜ?」
「悪趣味」
最低限の言葉で、郁奈は成夏に返す。
さっさと帰れ!!、ココロでそう叫びながら。
「お前ら美術部なんか、ただの能なしの集まりだろ」
「アンタらより、マシだと思う」
今すぐに振り向いて、憎たらしい頬を引っぱたいてらろうか。
そう思ったが、顔も見たくない、という思いが勝ったようだ。
郁奈は背を向けたまま。
「そんなんでも、真面目にやるんだよなぁ、優等生の風紀委員はな」
そのまま、朝と同じように2階の窓から飛び降りた。
一体、何をしに来たのか。
行ったことを確認し、郁奈はようやく振り返る。
そして、あっかんべーとした。
部員たちに向き直ると、反応はそれぞれ。
「すご、郁」
「ありがと。 ・・・・・・あんまり、嬉しくないけど」
苦笑して言葉を返す。
「なんか、意外ッス。 越智センパイ」
「自分でも、思うよ」
「なんか、郁奈の真の力——ってカンジだよな!!」
底抜けの有紗の明るい声と共に、トビラが開く音。
「何、なんか、あったの?」
セミロングの黒い髪。
落ち着いた声の主、三宅弥が立っていた。
「弥ちゃん」
郁奈が名前を呼ぶと、ニコリ、と笑って見せた。
これで、美術部全員。
少ない少ない、部員たち。
決して、成夏の言うように“ただの能なしの集まり”なんかではない。
大切な、郁奈の仲間、居場所。
「福田が来てさ、郁に余計なこと言ったの」
和紀が説明する。
「なんでまた、」
弥は、納得していない様。
「また、言うよ、弥ちゃん」
郁奈は笑ってそう言った。
——こうなったら、トコトンだ。
——絶対、福田を授業中に学校の自分の席に座らせてやる。