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Re: 叶わぬ恋……してもいいですか? ( No.352 )
日時: 2011/04/02 15:01
名前: 羅希 ◆JUP8K6dM0U (ID: rLJ4eDXw)



 40話


琴音は前日へと迫って来た文化祭の準備が終わり、帰宅しようとしているところだった。廊下を一人で歩いていると心なしか寂しい。

クラスの者達は大抵が裏方の仕事なので楓や夢理などは最後まで居残りだったのだ。梨湖と帰ろうと思っていたが用事があると断られてしまい今に至っていた。

「久々に一人きりだなぁ」

そんな事をぼやいても誰も声をかけてはくれない。頬を軽く含ませながらずんずんと昇降口へと向かって行く。手に持っていた男装するための服が入った紙袋が揺れる。そんな音が響く。

「…………? あれっ、夢理だぁ」

琴音の表情が見る見る内に蕾が花を開くかのように笑顔になる。そんな琴音を見ていた夢理はクスッと笑いながら片手を軽く上げた。

「今の琴音の顔、フグみたいだった……写メるべきだったな」

琴音を挑発するように夢理がいつもより明るい声をもらす。琴音の顔は瞬く間に真っ赤に染まっていく。

「み、見てたの……?」

かなり恥ずかしかったらしく俯いたままで口を開く。夢理は何故か、少しムスッとしながら、琴音がいる下駄箱まで戻って来る。

「俺は……俺は琴音の事まだよく分からない、だからたくさん知りたいんだよ」

夢理は投げやりに言葉を返す。そして、顔を俯かせたままの琴音へと手を差し延べた。琴音は顔を上げ、照れ臭そうに微笑んだ。

「うん……一緒に帰ろ」

「あぁ、帰るか」

夢理は琴音の左手をとり、歩き出す。琴音は少し後ろを早足で追う。視線を宙へと向ければ手前の空は茜色に、奥の空は青紫色に染まり、星が少しだけ瞬いていた。

「夢理、空見てよ」

琴音は瞳を輝かせ、指先を夕焼け空に向けながら言う。夢理は立ち止まり、顔を見上げる。

「……綺麗だな」

表情を緩ませ空を見つめていた。琴音も隣でニコリと笑う。

「売上トップ目指すぞー」

琴音は空に向かって叫ぶ。夢理は一瞬驚いたような顔をしたが、しだいにその顔は笑みに変わっていった。

「二日間、楽しもうな」

夢理は顔を琴音の方に向けながら口を開いた。明日は待ちに待った文化祭。どの学年もクラスも関係なく盛り上がれる二日間。そして…………琴音と夢理にとっても大きく何かを変える出来事になるのだ。そんな事を知らない二人は今あるこの瞬間をごくごく平和に過ごしていた。きっと願いは叶う……想いは通じる。つないだ手と手がずっと……ずっと離れないで欲しいと琴音も夢理も思っていた。今が有るのは春の日の出逢いのおかげなのだから。


……続く