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Enjoy Club 第4話『あなたのために……』(1) ( No.111 )
日時: 2010/09/01 22:52
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)


 今にも木枯らしが吹き抜けていきそうな、寂れた駅。
 都心に向かう電車のため乗客数は多い方なのだが、自分以外にこの駅で降りる人物は見当たらない。周りの乗客からの冷たく痛い視線を背中に浴びながら、ホームに足をつける。

 いつ見てもこぢんまりとした殺風景な駅だ。ホームと一応の屋根が取り付けられているだけで、もちろん階段やエスカレーターといった代物は設置されていない。2階がないのでそもそも必要がないのだが。ある物と言えば、ひびが入ってペンキの剥げたベンチが4つと、“下橋駅”と書かれた小さな看板、それだけだった。

「自販機くらい置けよなー」

 恨みがましくそう独り言を漏らしたのは、今しがた小松家を後にしてきたばかりの風也である。

 腕時計を見ると6時32分と表示されていた。そう言えばこの駅には時計の1つも見当たらない。

 ホームの丁度真ん中ぐらいの位置に、小さな改札口がある。そこで待機している駅員は、昔からの顔なじみだ。改札を通ると、半分眠りかけていた駅員がハッとして目を覚ました。

「おはようございます」
「おっ、おはよう。いやぁ、これが大きい駅だったら即刻クビになっているね〜」

 恥ずかしそうに頭をかく駅員。外見から判断すれば50代くらいの人なのだが、とても愛嬌があると下橋の住人からも好かれている。

 風也はニヤッと笑って、

「またしばらく誰も通らないと思うんで、寝てても大丈夫ですよ」

半分冗談半分本気くらいの気持ちでそう言った。参ったな〜と言って大声を上げて笑う駅員に別れの挨拶をして、風也は駅を出た。