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Enjoy Club 第4話『あなたのために……』(7) ( No.157 )
日時: 2011/12/23 17:40
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)

 下橋駅前の広場を抜け、斜め右の道をまっすぐ進んだ最初の角に、個人で経営する小さな居酒屋がある。
この店は何十年も前からこの地に根付いており、昔はいくつもあった居酒屋も今ではこの1軒のみとなってしまった。下橋が荒れだすにつれ、1軒、また1軒と店を閉じてしまったのである。そして危険を冒してあえてこの場に残ったこの店は、今では下橋の住人たちとも随分な顔見知りとなっていた。

 今日も2時間ほど前から常連客が4人、1番奥の席に居座っていた。

 店長もよく知る、不良たちの間では“緋桜のトップ5”と呼ばれている子たちである。

 3人が割とゆっくりとしたペースでお酒やソフトドリンクを口に運ぶのに対して、1人の女の子はいつも通りものすごい速さで強いお酒を注文していた。これだけ飲んでも顔が赤くなる気配すら見せないことに、店長はひそかに感嘆する。

 何杯目かのグラスを開けて一息ついたその酒豪に、正面に座るがっしりとした体格の青年が落ち着いた静かな声で話を振った。

「で、この前の弟の呼び出しはなんだったんだ?」

 長身に、鍛えられた体躯。タンクトップのシャツの上に軽く上着を羽織るという、割合シンプルな格好をしている。そして右目を覆い、残りはオールバックのような形になっている髪は、奇抜な銀色だ。もちろん染めたものだが、なぜかこの優しい顔立ちをした彼に妙にマッチしてしまうのだ。

 ——芝崎功。緋桜では現在最年長でサブリーダーを務める、実質下橋の大黒柱のような存在である。

 功の質問に答えたのは、ゆるく波打った茶髪を今日は頭の左上部でオシャレに結いあげた少女、月上有衣。

「あぁ、あれはやっぱ思った通り学校の相談だったぜ。マジひっでーの! 周りの奴、うちの家が地位高すぎて逆に近寄ってこないんだって! マジ変わってねーよなぁ……って、あ! んなことよりっ」

 突然キラッと目を光らせて、身を乗り出す有衣。

「この前風也が知らない女の子と歩いてるとこ見かけたんだよ! なぁ、伸次!?」

 無茶苦茶楽しそうな顔で斜め左に顔を向けると、話を振られた青年——三和伸次も、のせられたように何度も頷いた。どことなく幼い純粋そうな瞳を、興奮したように輝かせる。

「見たっ、大学の帰りに! なんか茶髪の結構大人しそうな奴っ」

 彼のチョコレートのような濃色の茶髪は、はやりの髪型に綺麗にセットされている。顔立ちも整っており、このどちらかというと可愛い部類に入る顔は歩いているだけでもよく目立つだろう。彼は、緋桜では4番目の位置についている。

 そこで、伸次の正面に座る、くりっとした瞳の可愛らしい少女が口を挟んだ。

「それで、風也に声はかけたの?」

 耳に心地よい、非常に女の子らしい声。彼女はこのメンバーの中では唯一のつややかな黒髪を、肩のラインで綺麗に切りそろえている。黒が基調の服はフリルがふんだんに使われており、胸元にはよく目立つ大きなリボンが。彼女が両手で頬杖をついてにこっと笑うと、両耳から下がるピアスが白く光った。

 彼女の質問に答えたのは伸次である。

「いや、迷ったけど、なんかいい雰囲気だったからやめとこーぜって……」
「ばぁ〜か、しーちゃんの役立たず」
「…うわ、ぐっさ…! そんな言い方はねーだろ、夜ゑ!」

 傷ついたようにわざとらしく胸を押さえる伸次に、華やかな笑顔のままの少女——蓮田夜ゑ。彼女の横では、有衣がテーブルをたたいて爆笑している。

「マジ頑張れよ、しーちゃん!」
「しーちゃん言うなっ。てか有衣、お前そん時一緒にいたじゃねぇか!」
「アタシはいいんだよ」

 まるでそれが確定事項のように堂々と言い放つ有衣。それを伸次が恨めがましく見つめていたが、そんな彼には構わず夜ゑが話題を元に戻す。

「彼女かなぁ。やっぱ」
「だよなぁ。そーいや、アイツが最近体調いいのもそのせいじゃね!?」
「タバコ吸ってんのもあんま見ないぜ—」

 それぞれが言うだけ言って、改めて顔を見合わせる。皆、安心したような嬉しそうな表情だ。それを功が、口も挟まずに笑みを浮かべて傍観している。

 一度静かになると、4人の間にしんみりとした空気が流れ始めた。


 と、そこで店のドアが開き、チリンチリン…と鈴が鳴る。

 入ってきた金髪の青年——彼らのリーダーにこっちだと手を振り、4人は一斉に目配せをした。

 何も知らずに近付いてきた彼は、「よぉ」と軽く手を上げ、功の隣に腰を下ろす。


 ——……さぁて、どこから話してもらおうかな〜?


 有衣はそわそわする気持ちを隠すこともせずに、口元には意地の悪い笑みを浮かべていた。


 その後風也が、亜弓について洗いざらい全て話す羽目になったことは、言うまでもない。