コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(5) ( No.476 )
- 日時: 2010/10/22 13:16
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: x/ARx04T)
「お待たせ、白波」
「ごめん白波くん——って、ウィルくん同時だぁっ」
身動きの取れない警備員達は、目だけでどうにか声のする方向に視線をやった。彼らの上方に、本当に闇組織のメンバーなのかと疑ってしまうような子供が2人、恐れの無い瞳でこちらを見下ろしていた。
片方は大きな黒瞳が印象的な、不敵な笑みを浮かべた少女だった。4階建ての古びた建物の屋上に腰かけ、線の綺麗な白い脚を組んでいる。早朝のさわやかな風が吹くと、肩辺りまでの黒髪が小刻みに揺れている。
もう1人の少年はさらに目を引く容姿で、その闇に浮かぶセミロングの銀髪と女性のようにぱっちりとした蒼瞳には、当然のごとく視線を持って行かれた。彼はその向かいの建物のベランダに座り、にっこりと微笑んでこちらを観戦している。
白波は、呆けたように頭上に意識をやる警備員達に内心呆れていた。一瞬、銃を引こうかと思ったが、すぐに思い直して自らの内の緊張感を高める。
するとウィルが、世間話をするかのように声を飛ばしてきた。
「白波ー、獲物はー?」
口では答えずに、顎で方向を示す。ウィルの隣の建物だ。
それを見た恵玲は、口端をつり上げさらに笑みを濃くする。
「ここ一般人いなそうだし、派手にやっちゃってもいいよね?」
彼女の思惑が読めず、白波もウィルも何も答えないうちに、
恵玲は今まで自分が座っていた屋上のコンクリートを、力強く蹴った。そして、消えた、と周囲が認識した瞬間。
「とりゃっ」
張り詰めた空気が緩む可愛らしい声とともに、ガラスの割れる甲高く細い音が辺りに響き渡った。恵玲が宙を滑空して、獲物がある建物の5階の窓を派手に蹴破ったのだ。
当然ながら辺りに鋭利なガラスの破片が飛び散り、透明な凶器の雨が降り注いで、真下にいた男たちが情けない声を上げて逃げだした。
白波はそれを唖然として見上げ、ウィルも彼女の大胆かつ無謀すぎる行動に度肝を抜かれる。
「ちょっ、恵玲! ケガするよっ」
ウィルがとっさに中腰になりながらそう叫ぶと、建物の中から「だぁいじょぶ!」と余裕の声が返ってきた。獲物がどこにあるのかもわからないのに、とウィルは困ったように呟いて、すぐ白波に目を向けてくる。この状況でウィルのとりうる行動はかなり限られている。白波が何も言わずに頷くと、安心したように微笑んだウィルは、次の瞬間その場から姿を消した。彼の能力を知らない警備員達は、唖然として空っぽになったその場所を見つめていた。
かなり行き当たりばったりな気もするが、あの2人に任せておけば獲物の方はどうにかなるだろう、と人数ばかりの左右の集団に意識を戻す。常人が自分達能力者に対抗できるわけがないのだがと息をつきかけ、しかしそうする代わりに彼は銃を握ったままの両手に力を込めていた。例外がいることを思い出したのだ。派手な金髪の男が頭をよぎっていた。
ふと柔らかい暗がりに包まれていた視界に、黄色がかった白い光がさして、白波はゆっくりと空を見上げた。その光は徐々に、しかし流れるような速さで辺りに広がっていき、あっという間に闇をなぎ払っていく。
「夜明けだ……」
さっき銃口を向けられて地面にへたり込んだままの男が、思わずといったふうに呟く。妙な感慨が、敵の集団の中に広がっていった。
——……そろそろ依頼の文書を手に入れた頃か……
恵玲とウィルが入って行った目的の建物を見つめる。蹴り破られ無惨な姿になった窓にも、一筋のあたたかい光が差し込んでいた。