コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(6) ( No.487 )
日時: 2010/10/22 13:25
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: x/ARx04T)

 約2時間後、2人は久しぶりに外の乾いた空気を吸っていた。同時に、クーラーのきいた館内では忘れていたカラッとした暑さも思い出して、ちょっとだけ顔をしかめる。右手を額にかざして影を作り、それでも眩しそうに空を見上げた。
 そしてふと視線を下ろし、目の前に広がる本物の海に、恵玲は目を見開いて歓喜の声を上げた。

「すごいすごいっ、景色きれーっ」

 さっきまで見ていたものよりも、濃く黒に近い青。風が吹いていないせいか、比較的波は小さく、穏やかに凪いだ海だった。

 思わず駆け出してから、途中で立ち止まり後ろ振り返る。一向に動く気配を見せない白波に、わざとらしく頬を膨らませた恵玲は、直後目を瞬き首をかしげていた。

「白波くん……?」

 彼は出口を少し出たところに佇み、何やら左方向の空を睨むようにじっと見つめていた。その視線を追った先には、赤い風船がぷかぷかと海の上の空を浮いており、さらに目を下げると4歳くらいの男の子が空を指さして泣きじゃくっている。その子が持っていた風船を離してしまったことは、一目瞭然だった。
 通り過ぎる人たちが、気の毒そうに、でもどこか微笑ましそうな表情で男の子を見ている。確かによく見る光景ではあるが、それでもやはりかわいそうに思って恵玲が眉を下げていると……

 白波が周りには聞き取れないごく小さな声で、何事かを呟いた。ついで無造作に下ろした右手の指先をわずかに動かす。

 突然、今まで気配すら見せなかったやや強めの風が、上空から吹き下ろしてきた。それも、赤い風船の周辺のみである。やがて風に押されるようにして地上に戻ってきた風船を、男の子の母親が慌てて掴んで、呆然とそれを見つめていた。当然のことながら、男の子は全身で喜びを表している。

 それを遠くから傍観していた恵玲は、申し訳程度に頬をかすった風を感じながら、一気に体温を上昇させていた。白い頬を紅潮させて、歓喜に満ち満ちた声を上げる。

「白波くん……!!」

 何事も無かったかのように彼女を見た白波が、いつもよりも柔らかい表情をしているような気がして、恵玲はぽかぽかと胸があたたまるのを感じていた。