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Enjoy Club 第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』(6) ( No.50 )
日時: 2010/09/01 06:46
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)


1時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時に、風也は屋上の扉を開いた。教室には行っていない。学校に1時間遅刻してきて、その足でここに来たのだ。
 ここは、広い上に、誰もいない。彼のお気に入りの場所だった。

 が、しかし。この日は少し事情が違った。

 屋上の、しかもいつも彼が腰を下ろしている場所に、見知らぬ人物がいたのである。もちろん、あの友賀とかいう女ではない。

 風也は扉を開いたところで立ち止まり、す…っと目を細めた。

 随分と長身の青年だった。180…あるだろうか。少なくとも自分よりはずっと背が高い。その青年は黒髪を大雑把に高い位置でしばり、春物のロングコートを着ていた。今日は小寒いので、その格好でもそう暑くはない、かもしれない。

 そして風也がつい目を見張ったのは、

 青年がワインを片手にグビグビ一気飲みしている光景である。

 ——……コイツ、いくつだ?

 自分のことは棚に上げて、風也は眉をひそめた。

 外見からすると、自分と同じかそれ前後と言われればまぁ納得であるが、さすがに20歳を過ぎているとは思えない。というよりも、おそらく彼の背格好が見た目年齢を引き上げているだけで、顔だけみると自分よりも年下のような気が……。

 風也はむらむらとした疑念を抱え、少しの間固まっていたが、すぐに青年とは逆側のフェンスにもたれかかった。バッグからさっき買ったばかりのお茶を取り出して、一口だけ口に含む。

 そして再び青年へと視線を向けた。
 ……腹が立つことに、彼は全くこちらを気にしていないようだった。

「——オイ」

 ここまで無視されると逆に興味がわいてくる。

 適当に声をかけると、丁度ワインを飲みほしたのか、青年は右手に空のボトルを下げた状態でようやくこちらを見た。綺麗な顔立ちをしてはいたが、その瞳はどことなく暗く、何に対しても興味を示さなそうな瞳だった。

「……お前、ここの生徒じゃねぇだろ」

 話題に困ったので、とりあえず彼の私服を指してそう尋ねる。

 ——……ていうかコイツ、どうやって入ってきたんだ

 どう考えても怪しい。

 果たして彼は、おもむろに頷いた。

「なんでこんなとこにいんだよ」

 正直言って邪魔だ。そういう意味も込めて青年を軽く睨みつけると、彼は至極低い声で答えたのだ。

「……人が来なそうな所に来ただけだ」

 風也の表情がわずかに緩む。

 と、そこで風也はその青年の足元に、あるものを発見した。

 ——……なんだ、あのスケボー……?

 青年がカタッとボトルをコンクリートに置く。それを見て風也は、再び眉をひそめて言った。

「お前いくつだ? ……まだ20歳いってねぇだろ」

 青年が不愛想にぼそっと呟く。

「——14」
「——は!? ……14って、中学生じゃねぇか……!」

 唖然として彼を見るが、彼は表情一つ変えずにこちらを見ている。

 そのうち風也は不思議と、彼とは気が合うかもしれない、と思い始めていた。……もちろん、どちらも犯罪を犯しているからではない。彼の雰囲気と言うか、その瞳に透けて見える何かが自分と似ているような気がしていた。
 もしかしたら、青年の方も同じことを考えていたのかもしれない。特に何をするわけでもなく、ぼんやりとこちらを見ている。

「……お前、名前は」

 まるで当然の流れであるかのようにそう聞いていた。
 彼も、無表情のまま少しも驚いた表情を見せない。

「白波。……有希白波だ」
「そうか…。オレは、紫苑風也。……よろしく」

 決して仲の良い雰囲気とは言い難いが、しかし、確かにここには似た空気が漂っていた。



 それから2人は会話もなく、ぼうっと空を見つめていたが、

「——そろそろ行く」

唐突に白波がそう言い、疑問符を浮かべて風也が振り返るのと同時に、


 さー…っと風がわずかに渦を巻いて吹き荒れ、


 白波の姿は忽然と消えてなくなっていた。


 風也は風の名残の中で、しばらく呆然とその跡を見つめていた。