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Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(7) ( No.519 )
日時: 2010/10/26 17:44
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: N9MWUzkA)

 西洋の血が入った自分とはまた違う、色白の肌。綺麗に染められた透き通るような金髪は、首筋までのショートカットで全く癖がない。今にもサラサラと音がしてきそうな髪質である。
 燦々と太陽が輝く空の下、全体的に薄着でラフな格好をした彼は、ポケットに手を突っ込み建物の壁に背を預けた体勢で、こちらの様子を窺うようにして見ていた。

 寒気を伴う驚愕に、目を見開くウィル。あまりに予想外の事態に冷や汗が吹き出してきた。
 ウィルが体を硬直させていると、風也は不審げに眉をひそめて言った。

「逃げねぇのか? テレポートで」

 形の良い唇をきゅっと結んで、ウィルは真剣な瞳で風也を見つめている。それを風也は、心底嫌そうに顔をしかめて睨み返していた。

 ウィルは彼の質問に答えないまま、内心非常に悩んでいた。
 テレポートを使えば、確かにこの場は切り抜けられるだろう。しかし、それでは任務は完全に失敗に終わる。そしてこのまま何の情報も手に入れずにすごすごと帰るなんてことは、できるだけ避けたいのだ。それこそ彼のプライドが許さないのである。しかも元々風也には闇組織のことはバレてしまっているから、逃げる必要もないわけだ。

 うまくやれば本人から色々と聞き出せるかもしれないと、ウィルは違和感のないように当たり障りのない世間話から始めた。

「さっきからにぎやかな声が聞こえてくるんだけど、あそこでサッカーやってるのはキミの知り合い?」

 まさか本人から聞き出そうとは、さしもの影晴も予想していないだろう。

 ウィルはいつも通りの穏やかな微笑を浮かべて、根気強く彼の返事待った。

 が、しかし。

 流れるのはピリピリと肌に痛い沈黙のみ。おまけに風也はお世辞にも友好的とはいえないオーラを発して、射抜くような鋭い目つきでこちらを睨みつけてくるのである。それは覚悟していた以上に剣呑な光で、ウィルはごくりと唾を飲み込んでいた。

 低い、威嚇を伴う声音で風也は言う。

「オレがそう簡単に喋ると思ったか? ……ただでさえ気にくわねーっつーのに」

 瞬間、ぴくっと頬をひきつらせるウィル。

 ——……今さらりと酷いことを言われたような……

 やはり一筋縄でいくタイプではないかとため息をつきかけた時、ウィルはさっき以上の、それこそ殺気に近い空気を感じ取って、そろそろと目を上げた。風也が何かを見透かそうとするように、そらすことなくつり目を向けてくる。
 ウィルが黙って見つめ返していると、彼はしばらくの沈黙の後、ようやく口を開いた。

「……オレも聞きてぇことがある」
「だったらぼくの質問に答えてよ」

 ふっと緊張を解くようにウィルがもらした苦笑を、風也は気にもとめなかった。

「お前の仲間に……オレらの知り合いはいるか?」

 思わず表情を動かしかけ、しかしウィルはそこでぐっとこらえた。平静な表情を取り繕い、自然な形で首をかしげてみせる。

「何の話?」

 ウィルのとぼけた声に、風也ははっきりと眉根を寄せた。品定めするような目つきでウィルを見、どうするべきか悩んでいるようだった。
 一方ウィルはというと、今日何度目かの酷い寒気を背筋に感じている。

 ——……まさか、恵玲のことじゃ……ないよね?

 “オレら”というのは間違いなく、彼と友賀亜弓の2人のことだ。だとしたら、“知り合い”というのは恵玲もしくは白波、そのどちらかになる。そして白波が闇組織の一員であるということが、とうの昔にバレていることを考えると……

 ——……まさか、ね……

 ウィルは内心虚しい空笑いをもらしていた。恵玲が麗牙光陰の1人だとバレる要素はなかったはずだ。しかし、もしこのことに風也が気付いているとしたら、本当に笑い事ではない。少なくとも、恵玲にとっては。

 平然とした表情の裏でウィルはわずかながらも混乱していた。風也がはっきり“誰”と言わない上に、その根拠も示さなかったせいだろう。彼がどの程度の確信を持ってその問いを投げかけているのか、彼の不機嫌そうな顔からは全く読めなかった。
 そしてさらに風也が、「ま、どーせ喋んねぇか」とあっさり引き下がってしまったことで、結局結論が出ずじまいになってしまった。

 もどかしそうに唇をかむウィル。

「ぼくもキミ苦手かも……」
「そりゃあどうも。……それよりお前ら、随分変なタイミングでここに来たんだな? オレを警戒するにしても、あれから3ヶ月近くたってるぜ? それともまた別の用か?」
「いや、きみのこと警戒してるんだと思うよ。ぼくもここ来る時期に関しては疑問なんだけどね」

 困ったような笑みを浮かべて言うウィルを、風也は意外そうな表情で見た。

 ようやくこの場の居心地の悪い空気が薄れていく。

「ふ〜ん。ここに来んの初めてか?」
「うん。2回目以降だったらテレポートで来ちゃうしねー」
「……反則だろ、それ」

 風也はため息交じりにそう呟いて、ふともたれていた壁から体を起こした。正面にそびえる建物の黒っぽい壁を見るともなしに見つめて、ぽつりと独り言のように呟いた。

「突然調査っつーことは、闇組織で何か変化があんのかもなー」

 ハッとして彼を見るウィル。

 建物に挟まれた細い路地を乾いた風が吹き抜けて、ウィルの銀色の長髪をなびかせていった。

 さすがグループを仕切っているだけのことはある。そういうことについてはやはり敏感だ。

 ウィルは驚いた表情で彼を凝視し、心ここに在らずといった呆けたような声で言った。

「……あるよ……」
「——は? 何が」
「変化。今度の日曜日に、麗牙全員組織のリーダーに会わせてくれるって——」

 自分でも気付かないうちにそこまで喋ってしまってから、ウィルはハッとして口をつぐむ。そして、恨めがましそうな目で風也を見た。

「……ぼくやっぱりキミのこと苦手だ」
「知るかよ。勝手に喋っておいて」

 最後まで機嫌が悪そうな態度をとっていた風也は、冷たい声でそう吐き捨て、くるっとウィルに背中を向けた。未練なく、ひらひらと右手を振る。

「じゃあオレはそろそろ行くぜ。てめぇもウゼェからさっさと帰れよ」
「あっ、ちょっと待って」

 そのまま立ち去ろうとした彼を、ウィルは慌てて呼びとめた。