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Enjoy Club第3話『我ら、麗牙光陰——』(2) ( No.58 )
日時: 2010/09/21 06:43
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

 コトッと静かな音を立てて、ティーカップが置かれる。途端に、ふわぁっと紅茶のいい香りが辺りに漂った。

「わぁ〜っ、いい香り〜」

 思わず顔を寄せて、目を閉じる。水面に映る自分の顔に、自然と笑みが広がっていった。両手を、カップを包み込むようにして当てる。
 それから優雅な手つきで一口だけ紅茶を口に含むと、パッとキッチンにいる銀髪の少年を見て、通りの良い、そして甘い声で言った。

「さすがウィルくん! 本場は違うねっ」

 ウィルは振り返ると、照れたように笑う。

「そんなことないよ。……ていうか、恵玲はいつもここで飲んでるじゃないか」
「何回飲んでもおいしいのぉ」

 ウィルの裏の無い気持ちの良い笑顔に、さらに恵玲の頬が緩む。テーブルの下で見えない足をパタパタと揺らし、両手はティーカップに添えたまま、その瞳はじ〜っとウィルを見つめていた。
 自分の分も紅茶をいれたウィルが納得したように頷き、不意に恵玲を振り返る。少しだけ頬を染めて、

「そんなに見られると、さすがに照れるんだけど」
「えへへっ」
「いや、えへへじゃなくて——」

 言いかけたウィルだが、彼女が本当にこちらが見惚れてしまうような笑顔を浮かべているのを見て、それ以上は言わないことにした。……恵玲のことだから自分で気付いているのだろうが、彼女は時々びっくりするほど可愛い笑顔を浮かべる。それも、何年も一緒にいる自分までがドキッとしてしまうほどに。きっと、任務の時の強気な、不敵な表情をよく見ているから、なおさら女の子らしいところに目がいくのだろう。

 ウィルは恵玲の向かいに座り、一口紅茶をすすった。

 今日は2人以外この家にはいないので、いつもに増して静かである。

 恵玲は頬杖をつきながら、ティーカップに口をつけるウィルを見ている。彼がふっと目を上げると、恵玲が不思議そうな顔で尋ねた。

「白波くんとみぃちゃんはぁ? 今日日曜なのに、いないのぉ?」

 ちょこん、と首をかしげると、シャギーにした黒髪が首筋をサー…と覆う。
 ウィルは丁寧にカップを置いた。

「みぃちゃんは午後から来るってさ。家で学校の宿題やらなきゃって」
「あ、あたしも話し終わったらここでやってく〜。白波くんは?」
「音信不通」
「——へ?」

 カップを持ち上げようとした手が止まる。大きな黒瞳をさらに見開くと、ウィルは浅いため息をついて言った。

「まぁ、おとといからだし、すぐ連絡つくよ」

 恵玲も、彼の言葉にほっと胸をなでおろす。

「2日だったら、よくあるかぁ……。ほんと突然連絡つかなくなるよね、白波くんて」
「学校に行ってるわけでもないのにね」

 クスッと笑みをこぼすウィル。

「それはウィルくんもでしょぉ〜」

 恵玲が声をあげて笑うと、ウィルもつられたように笑いだした。

 ひとしきり笑い終えると、スイッチを切り替えたように恵玲が真剣な表情でウィルを見る。彼も、やっぱり恵玲は頼もしいなぁ…と、やや緊張感を帯びながらも口元には微笑みを浮かべて、彼女の言葉を待った。

「そろそろだよね。この前下見したところの任務」

 この自分達があっさり見つかってしまった、あの大きな屋敷。

 ウィルは口元を引き締めて頷く。

「あの後も影晴様から色々情報もらったから、後で教えるよ。……ちょっと問題なのが、白波に連絡がいかないことなんだよねー」
「いざとなったら、あたしが暴れまくるから全然大丈夫だよ。強行突破すればいいし」

 顔なんて、今までの任務で何度も見られている。強い味方が背後に控えているので、たいていはそのまま放っておいてもどうにかなるし、万が一見られちゃいけない相手だったとしても、他のグループに記憶を消す能力を持った人がいるから大丈夫だ。

 と言うよりも、恵玲がコソコソするのを嫌うという闇組織にふさわしくない性格のため、今までの任務も結構大胆にやってきているのだ。そのうち影晴にお叱りを受けそうだが……。

 そしてこの大胆な少女・荒木恵玲は、強行突破では飽き足らず、さらに危険な方法を提案したのである……。