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Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(15) ( No.697 )
日時: 2010/11/27 14:02
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)


「良かった、ちゃんとついて。迷わなかった?」

 恵玲が2人の1メートルほど手前で立ち止まると、ウィルがほっとしたような表情を浮かべて尋ねてきた。それに対し頷いた恵玲は、持っていた地図をたたみながら頼もしい声音で言う。

「地図があれば1人でも全然来れるよぉ」
「そっか。影晴様がぼくのテレポート無しでも皆が来れるようにって言ってたから、大丈夫そうで良かったよ。みぃちゃんもちゃんと来れたしね」
「うん。あとは白波兄ちゃんだけだね」

 2人の台詞に頷いて、恵玲はふと辺りに視線をやった。ほうっと吐息が漏れ、大きな黒瞳が自然と見張られる。

「こんなにおっきい庭、初めて見た……」

 とにかく広い、だだっ広い敷地。周囲を囲む塀に沿ってずらっと木々が並び、敷地外に青々とした葉をのぞかせているが、手入れされている様子はうかがえない。そして彼女が歩いてきた門から玄関までの真っ直ぐに伸びる土色の道と、他全体を覆い尽くす芝生以外に、花や池といった目立つものは施されていなかった。強いて言えば、玄関の横に黒い車が1台とまっているだけだ。塀の外から眺めていた時の予想よりもはるかに殺風景な庭を、恵玲は意外に思って目を瞬いていた。

 するとウィルの隣で様子を見守っていた水希が、口元にささやかな笑みを浮かべ静かに近付いてくる。そして恵玲の横に並ぶと、バッグを持つ手を後ろ手に組んで、しみじみとした声音で言った。

「初めてだね、影晴様の屋敷……」

 風が敷地内を駆け、芝生がざぁっと音を立ててあおられる。同じく風になびいた黒髪を耳に掛けながら、恵玲は横にいる彼女に目をやった。彼女は恵玲を見ずに正面を向いたまま、わずかに目を細めてうれしそうな声音で続けた。

「会えるね、影晴様に……!」

 ドクン、と心臓が音を立てる。

 じわじわと恵玲の口元に笑みが広がっていき、最後には満面の笑顔に変わっていた。

「そうだね……!」

 2人で顔を見合わせて微笑み合う。それだけで体が優しいぬくもりに包まれる。あの日、大崎影晴との出会いと共に手に入れたぬくもりだ。友賀亜弓に感じるものとはまた別の、能力者同士のみ共有できる感情である。

 その様子を微笑ましそうに見守っていたウィルは、門から新たな人物が姿を見せるのを視界にとらえて、無意識に背筋を伸ばしていた。その反動でセミロングの柔らかい銀髪がわずかに浮いて、再び肩へと落ちつく。あちらにも見えるように気持ち背伸びをしながら、彼は右腕を緩やかに振った。

「白波!」

 ハッとして恵玲と水希も門のほうに目を向ける。
 いつも通りただ漠然と進行方向を見つめながら、仏頂面の有希白波がこちらへと歩いて来ていた。そろったね、と呟くと、ウィルは薄い茶色を基調とした家を仰いで、じっとそれを目を細めて見つめていた。