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Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(16)  ( No.708 )
日時: 2010/11/30 20:31
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)

 これがどこかのお城だったら、“謁見の間”とでも称すのだろうか。
 開かれた扉の向こうを見た恵玲は、感嘆の吐息と共にそんなことを考えていた。

 長方形の広い部屋。両側は大きな窓がいくつも並び、それらの縁は丁寧な彫刻で飾られている。派手すぎない落ち着いた赤色の絨毯が、足元——つまり入り口から真っ直ぐ部屋の奥まで伸び、この部屋の格調を何倍にも上げている。そして部屋の一番奥は床が一段高くなっていて、そこには玉座のような立派な椅子がしつらえてあった。さすがに金ぴかではなかったが。

 恵玲はレッドカーペットのように一直線に伸びる絨毯を、手前から徐々に奥の方へと目で追っていき……

 やがてある男性を、その印象的な黒瞳にはっきりと映し出した。

 右目が包帯で覆われた隻眼。その白い包帯にかぶるように右側だけ長く伸ばされた黒い髪。後ろは首筋を覆う、やや長めの長さ。鼻筋は通り、細い顎が顔全体を引き締めている。隠されていない左目は凪いだ波のように穏やかに、しかしどこか狂気の色を含んでいた。緩く弧を描く薄い唇からは、どんなことが起きても大丈夫、そんな大きな余裕を感じさせられる。年齢は、外見から判断すれば30代くらいだろう。
 仕立ての良い黒いスーツを身にまとったその人物は、部屋の一番奥の椅子に堂々と腰かけ、足を組んで、微笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

 思わず、すぅ……と息を吸い込む。それを吐き出せないまま高鳴る胸に右手の拳をあて、震える唇をかむようにして押さえこんで。——直後、どかんっと一気に体温が上がり、恵玲は感極まった表情で、声で、叫んでいた。


「——影晴様!!」


 誰かの歓喜に満ちた声がかぶる。おそらく水希だろう。

 2人の声に一層笑みを深くした男性——闇組織・E・Cのリーダ大崎影晴は、ゆっくりと椅子から腰を上げこちらに向かって歩き出した。それを見て目を見開いた恵玲と水希は、次の瞬間迷わず駆け出し、影晴の胸に飛び込んでいた。

「影晴様〜!」

 さすがに驚いた様子の影晴はしばらく目を丸くして腕の中の2人を見下ろしていたが、ややあってその瞳に慈愛の色を灯し、大きな掌を頭にのせた。

「正直そこまで喜んでくれるとは思わなかったなぁ。2人とも、元気にしてたかい?」

 頭を優しくなでられ抱きついたまま顔をあげた2人は、心底うれしそうな表情で言葉を返す。

「はい、おかげさまで!」
「7年振りなんですよぉ? うれしくないわけないじゃないですか!」

 すると影晴は微笑みを絶やさないまま、膝を折って目線を下げてきた。それは……そう、初めて会ったあの日のように。ただ当時と決定的に違うのは、比較的低い部類に入るとはいえ、2人ともあのときよりは随分と背が伸びたということ。背は高めの影晴でも、しゃがんでしまうとさすがに恵玲たちを見上げる形になる。
 尊敬する大好きな主に会えた喜びに加え、こんな行動までとられてしまい、恵玲はじんわりと胸が熱くなった。

「大きくなったね、2人とも」

 感慨深い声で、そんなことまで言う。
 つい目頭が熱くなったのを、恵玲は無理矢理押さえこんだ。隣にいる水希は瞳を涙で滲ませ、しゅんと鼻をすすっている。

 ——変わらない。
 彼女らの主は、以前と変わらず、大きな包容力のある優しい笑みをその頬にたたえている……。





 完全に取り残される形となったウィルと白波は、部屋の入口に突っ立ったまま、その光景をじっと見つめていた。特にウィルは、自分のことのようにうれしそうな表情だ。
 あんなに喜ぶのも無理はない、とウィルは思う。自分と違って、彼女らは何年も彼に会っていないのだから。

「良かったね」

 周りには聞こえないような小さな声でそう呟き、ウィルは彼女らと同じく久し振りの面会のはずの白波に声を投げた。

「白波も行ってきたら? 感動の再会」

 ちらりと視線だけ寄こす白波。

「……いい」

 思った通りの辞退の言葉に、ウィルはついくすっと笑みをこぼしていた。