コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(2) ( No.727 )
- 日時: 2011/01/08 10:23
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 1/l/Iy6H)
突然、聞き覚えのない声が入りこんで来て、私は矢継ぎ早に投げかけていた言葉の続きをのみ込んでいた。今まで恵玲しか映っていなかった私の世界が急に開けて明るくなり、一瞬思考が追いつかなかった私は呆けてぽかんと口を開ける。驚いたのは私だけではなかったようで、隣に立つ風也も、恵玲たち組織の4人も、一斉に声の主に視線を飛ばしていた。
皆の注目を一身に浴びたその男性は、口元に全てのものを受け入れてしまいそうな寛大な微笑みを浮かべて、穏やかな口調で言った。
「まだ言いたいことがあるみたいだけれど、そのためにこれ以上時間を与えるわけにもいかないからね。こちらも話がややこしくなる前に済ませてしまいたいことがあるし」
彼は一歩、二歩と歩を進めて、恵玲の横に並んだ。歩くのに合わせて揺れる前髪の裏の白い包帯に、なぜだか視線が吸い寄せられる。
「影晴様……?」
恵玲の後方にいる銀髪の少年が、彼の顔色をうかがうように躊躇いがちに声をかけた。その綺麗な少年には見覚えがある。小松家での騒動のときに、テレポートをして私達を驚かせた人物だ。彼の銀髪蒼瞳はそう滅多なことでは忘れない。
しかしその男性——影晴は、特に反応は見せず、口元の微笑みを絶やさないまま平然と言ったのだ。
「恵玲、ちょっとでいいから紫苑くんの動きを止めておいてくれるかな?」
恵玲がぽかんと口を開けて影晴を見上げる。対して彼は正面、つまりこちらを向いたまま、彼女には視線すらやらない。組織の他の3人も唖然とした表情で彼を見つめている。いや、1人だけ横目に見るだけで表情一つ変えない長身の人物もいたが。
私も恵玲同様間の抜けた顔をして動きを止めていると、不意に視界を遮るように正面に立った人物がいた。——風也だ。彼はじりっと片足を半歩後ろに引き、だらんと両手を下げて真っ直ぐに闇組織の面々を見つめている。
そこで私は今更ながら、彼はなぜ恵玲を追ってこんな所まで来ようと思ったのだろう、と内心首をかしげてしまった。しかしその疑問も考えるまでもなく一瞬で解ける。ほぼ間違いなく興味本位だろう。誰だって闇組織なんていう非日常なものを見つけたら、興味をそそられて当然だ。危険を冒してまでここに来るかは別として、だが。
一方たった一言で一気に部屋の空気を不穏なものにした影晴は、全く命令の意味が理解できていない恵玲らを放って、今度はこちらに語りかけてくる。
「君たちがどうしてここに来れたかってことについては、聞かないでおくよ」
いかにもすでに知っていそうな顔で、しれっとそんな台詞を吐く。
「ただ……」
彼の声に狂気の色がにじむ。
「この機会に君たちを無力化させてもらおう」
一同に、緊張が走った。それは私と風也だけでなく、恵玲ら闇組織の面々にもだ。恵玲が信じられないものを見るような怯えた目つきで、影晴の顔を穴があくほど見つめていた。
「さぁ、恵玲」
びく、と一瞬恵玲の細い肩が震える。上目遣いで彼の顔をのぞきこむように見上げる。
私はつい目を見張ってしまった。“あの”恵玲がこんなにも畏れるような様子をみせるだなんて、影晴という人物はどう考えてもただ者ではない。しかし印象的だったのは、ただの“畏れ”ではなく、驚愕や不審といった感情もその瞳に映っていたことだ。銀髪の少年も、何か言いたそうに口を開きかけては閉じる動作を繰り返している。
そんな彼らには構わず、相変わらず静然とした様子で影晴は“命令”した。
「動きを一瞬止めてくれさえすればいい。そうしたら後はこちらでなんとかする」
「オイ、てめぇなめてんのか」
突然そう口を挟んだのは風也だった。私の目の前に立っているため背中しか見えなかったが、2、3メートル離れて立つその男性に殺気を飛ばしていることだけは予想が付いた。
影晴がふっと余裕の笑みをもらし、対して風也はより一層濃い殺気を放つ。
「なんならてめぇからやってやろうか……?」
「いや〜それは困る。私の能力は性質上闘えないからね」
言葉とは裏腹に、影晴は緊張感を感じさせない表情でひらひらと手を振る。
——……風也もう完っ全にドンパチモードに入っちゃってますねー
のんきにもそんなことを考え、再び恵玲に視線を移して、納得のいかない気持ちに唇を噛んだとき。
恵玲がす……と影晴の前に立った。彼女が少しの間目を閉じ深く息をついて、ゆっくりと瞼を上げたときには、
その瞳は透明な冷たい闘気に光っていた。
「影晴様には手出しさせない」
低く張り詰めた、何かを決意したように固く揺らがない声。彼女の“本気”を感じて、私は全身を硬直させていた。
不意に恵玲が一瞬私に目を向け、その視線を風也に戻すと、前を見たまま影晴に声を飛ばす。
「影晴様、お願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「亜弓には手を出さないでくれませんか?」
ハッとして彼女を見る。しかし先程のように目を合わせてはこない。
果たして影晴は柔らかく落ち着いた声で言った。
「わかった。危害は加えない」
「ありがとうございます」
恵玲がそう言った、次の瞬間。
恵玲と風也の姿が大きくぶれた。
始まりの合図も何もなく、
2人は同時に床を蹴っていた——!!