コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(6) ( No.813 )
- 日時: 2011/01/08 10:27
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 1/l/Iy6H)
- 参照: 2ページです。また切る場所が半端に……(泣;
くたりと折れた亜弓の身体を肩の辺りを持つようにして支えながら、ウィルはたまっていた息を大きく吐き出した。彼女の長い真っ直ぐな茶髪が、伏せられた顔に簾をかけるように垂れ下がっている。亜弓の方が背が高いため、彼女の膝がやや曲がった状態になっているが仕方がない。
ウィルはそのままの体勢で強くまぶたを閉じて、申し訳なさで埋め尽くされてしまいそうな自分の気持ちを切り替えようとした。これからどうするべきかがはっきりしていない今、ここでウジウジと後悔しているわけにはいかない。主からの指令にすぐに動けるような状態にしておかなければ。
数秒後、まぶたを上げた彼の瞳は、自分がひとチームのリーダーであるという自覚とその責任感とで、力強く前を見据えていた。
とりあえず自分が支えている亜弓の身体をどうにかしなくては、とウィルが視線を左右させたところで、静かな、まるで気配を殺しているかのように静かな足音が彼に近付いてきた。入口の扉の辺りに目をやっていたウィルは、特に何を考えるでもなく音に引っ張られるようにして後ろを振り返り、そこでようやく表情を変えた。
「恵玲……」
耳に届いた自分の声はかすれ、情けなくなるほどに弱々しく揺れている。整った顔がくしゃりと歪んだ。一度抑え込んだはずの謝念と後悔が、どっとウィルの胸になだれ込んでくる。彼女の目を真っ直ぐに見れずに、ウィルはつい目を伏せてしまった。
「ごめん」という謝罪の言葉が口をついて出る前に、目の前まで来た恵玲が亜弓の長い髪をなでながら固く真剣な声で言った。
「いいよ」
ハッとして目をあげ、恵玲を見る。真正面からぶつかった彼女の黒瞳は冗談の色など欠片もない、ひたむきなものだった。ただし決して平静としていたわけではなく、やりきれない思いや紛れもない非難の色もはっきりとにじみ出ていたが。
今まで見てきた彼女の華やかだったり頼もしかったりする表情とは違う、わずかでも自分を責める色を含んだ彼女の顔つきに、ウィルは息が詰まって眉を歪めた。恵玲は表情を変えずに再び視線を下ろし、ウィルが腕に支えたままの亜弓を見る。ウィルもすぐには目を覚ましそうにもない彼女を、唇を固く引き結んで見つめる。
恵玲のどこか淡々とした声音が、ウィルの耳に直接響いた。
「ウィルくんはきっと悪くないから、影晴様もきっと悪くないから、責めたくないから、……今回だけは許してあげる。でも——」
一度言葉を止めてこちらを向いた彼女の顔を見て、ウィルは変に落ち着いた心地の中、内心呟いていた。
——……あぁ、ぼくは恵玲を、怒らせた……
恵玲はその汚れのない真っ直ぐな瞳でウィルを見据える。
「二度と亜弓を傷つけないで。例え影晴様の命令だったとしても、もう一度亜弓を傷つけたりしたら……その時はいくらウィルくんでも許せるかどうかわからない」
囁くような、しかし驚くほどに芯の通った強い声だった。おそらく他の面々には聞こえていないだろう小さな声でも、それは一寸のずれもなくウィルの胸の中心を貫いていた。気が付くと、「ごめん」とくぐもった音が自分の口から発せられていた。どこか呆然とした面持ちで、ウィルは馬鹿みたいにもう一度その言葉を呟いた。
「ごめん」
——……傷つけた。他でもない、恵玲を——
すると恵玲は、ぎこちなくではあったが口元に笑みを見せてくれた。その固い微笑を見たウィルは、彼女が意識的に自分を許そうとしてくれていることが分かって、責めまいとしていることが分かって、不覚にも目頭が熱くなった。それが彼女にばれないように目に力を入れ唇を噛んでこらえると、ウィルは彼女の目を見て真摯な瞳ではっきりとうなずいた。もう二度と彼女の親友を傷つけない。ウィルは固くそう心に誓っていた。
ふとそこで思い出したように亜弓を支える腕にしびれが生じて、ウィルは彼女の体を座らせ丁寧に上半身を扉の横の壁にもたれかけさせた。倒れないようにそっと手を離し、すぐに後ろを振り返る。まだ床に倒れたままの風也に目をやって、不安に表情を曇らせた。
天銀の能力が何なのか、紫苑風也は彼に何をされたのか。その疑問が全く解けない。床に倒れている彼が無事なのかどうかさえ見当がつかない。わかっているのは、彼が指先すらピクリとも動かさないことと、閉じた瞼が開く気配が全く無いこと、それだけだ。