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Enjoy Club 第3話『我ら、麗牙光陰——』(6) ( No.86 )
日時: 2010/09/01 06:54
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: 7hab4OUo)

 今、私の席の周りは、ぽっかり穴が開いたように誰もいない。いつも一緒にいる津波、美久、静音の3人すら、私の席を遠巻きに見ている状況だ。

 ……なぜこんなあまりにも寂しすぎる状況になったのか……?

 どれもこれも、ある人物が原因なのである。




「——で? 結局荒木はどうすんだよ」

 そう話を振ったのは、紫苑風也。言うまでもなく、この状況の元凶である。そして彼の声の先には、なぜか主を押しのけて私の席を陣取る恵玲の姿が。
 2人はどうやら昨日初めて対面したらしく、ついさっきそのことで私を驚かせたばかりだ。


 つい5分前、彼は今日の夜、つまり小松の依頼の話をするために、4組に出向いてくれたのである。しかし普段から慣れている彼のクラスはいいとしても、私のクラス・4組の子達は、不良がこの領域に入ってくるなど頭の片隅でさえ考えていない。完全に予想外の出来事なのだ。そして当然クラスメートは彼を遠巻きに見る形になり、今の状況に至る。
 しかしこれでは小松との交換条件が台無しではないか。まぁ2人きりでいるわけではないので、大丈夫だろうが。

 それでも私は小声で尋ねてみた。

「……また昼休みにこの話するのかなぁと思ってたんですけど……」

 いつもの屋上で。あそこだったら恵玲を連れていけばいいだけで、邪魔者は誰もいない。
 すると彼は、「あ〜…」と言いよどむような声を上げ、ごまかすように前髪をかきあげた。

「オレ今日2限の授業出たからよ、ついでに丁度いいかと思って来ちまったんだけど……なんかマズかったらしいな」

 そう投げやりな感じに言って、ざっと教室を見回す。遠巻きが目を合わさないようにしているのを見て、ため息を漏らした。
 私は笑おうとするも、苦笑しか浮かべられない。

「皆完全に不良だと思ってますからねー」
「……どっちかっていうとお前がおかしいんだろ」
「それより!」

 冷めた声でぼそっと呟く彼を押さえて、私は話を本題に移した。

「今日の話をしましょうよ!」

 そういう経緯で例の予告状の話題になり、そして当然恵玲へと焦点が向けられたのである。

 聞くと、概要も、一緒に来てほしいということも、昨日風也から聞いているらしい。それならばすぐにでも承諾の返事が来ることを期待していた私は、思っていた以上に強く渋る恵玲に首をかしげてしまった。

「何か用事でもあるんですか?」

 私は隣の席の椅子に座ってそう尋ねると、彼女は机に突っ伏して返事もしない。思わず彼と目を合わせて、眉をひそめた。





 机に伏せながら、恵玲は昨日の夜から考えていることを今も悩み続けていた。
 普通に考えて、彼女が今回のことに関わるのは当然良くない。しかも亜弓側に味方して、E・Cのメンバーと戦うことにでもなったら、笑いごとでは済まないのである。彼女自身の、組織のメンバーとしてのクビがかかってくる。

 しかし実は、亜弓の提案は彼女にとってとても魅力的な話だったのだ。何がそんなに魅力的か……って、


 ——……ウィルくんと白波くんの勇姿が拝める……!!


 この一点に限る。

 いつもは彼女自身も一緒に任務に参加しているため、彼らを真剣に見つめている暇などめったなことでは存在しない。まれに任務のメンバーに入らなかった時も、勇姿を拝みに行こうとするとウィルに若干泣きそうな顔で拒否されてしまうのである。理由を尋ねると彼は、

「だって、恥ずかしいじゃないか!!」

と赤面になって叫ぶのだ。
 もちろん恵玲はそこで、「ウィルくん、可愛い〜!!」と甘い声を上げて彼に叱られるわけだが。

 とにかく恵玲は、2人が任務をこなす姿を一度でいいからじっくり見てみたいのである。しかも、敵にも味方にもつかない状態で……。





 恵玲は、合図も無しに唐突に顔を上げた。危うくぶつかりそうになり、私は反射的に身を大きく引く。

「え、……恵玲?」
「決めた!」

 この場に似合わないほどに真剣な表情の恵玲を、2人で不審に思いながら見つめる。彼なんか思いっきり眉を寄せて、何か得体の知れないものを見るような目つきで彼女を見下ろしている。

 果たして、机の上に両の拳を握って、熱っぽい目で真っ直ぐに前を見据えた恵玲は、断固とした声音で言い放った。


「あたしも行く! でも……、

 

 一切手足は出さない!!」



 彼女の本来の目的を忘れたような発言に、私は唖然として彼と顔を見合わせた——