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- Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(8) ( No.889 )
- 日時: 2011/03/18 23:47
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
- 参照: 2ページです
ウィルら麗牙の4人が緊迫した雰囲気で見守る中、迅は靴で床をすりながら亜弓と風也の元に歩いてきた。かなり低い位置ではいたズボンのポケットに手を突っ込んで歩く様子は、ウィルから見ればやや不良の域に入るもので、彼は思わず困った顔つきをしてしまった。それでも、亜弓ら2人をちょうど囲む形で立っていたウィル達は、戸惑いの表情を浮かべつつ一歩身を引いて迅に道を開ける。が、一人だけよける様子もなく彼の正面に立ちはだかった少女がいた。いつも通り堂々とした立ち姿の恵玲である。
彼女と能力を使う対象である2人との関係を、迅は知らない。当然彼は、ウィルの見つめる先で怪訝そうに目を細め、恵玲を見返した。
「……なんだよ」
迅の口からややたじろいたようなかすれた声が漏れる。彼自身が先程可愛いと太鼓判を押した人物が、今腕を組んで揺らがぬ瞳を自分に向けているのだから、その反応も仕方がないだろう。迅はわずかに引き身になりながら、それでも強気であろうとするように目の前の恵玲を見つめている。対して恵玲は、怒りの感情は見せていないのに、それでも相手を縛りつけるようなそんな強い光を黒い瞳に灯らせていた。
数秒の沈黙の後、恵玲が割合穏やかな声で尋ねた。
「あなたの能力……記憶を消せるものなの?」
彼女の声音にほっとしたのか、迅が緊張を解いたのが分かった。そして彼は、どことなく照れの見え隠れするもごもごとした口調で答えたのである。
「け、消すっていうか、封じるんだよ。だから思い出させたくなかったら、E・C関係の事はあんまりコイツらの前で出さない方がいいぜ」
「危害は? 記憶消すのと一緒に何か2人に副作用とかはないよね? 例えば亜弓のバカな頭がもっとバカになるとか」
口では冗談を言いながらも、恵玲の表情はいたって真剣だ。本当に安全だと確認できなければ絶対に2人の前をどかなそうな、そんな頑固さで迅の前に立ちはだかり、初対面の彼に対し何の遠慮もためらいも見せる様子がない。
ウィルはそれを一歩下がったところで見つめながら、何もできない自分自身の情けなさに強い悔しさを感じていた。2人に能力を使っても安全なのかどうかということは、ウィルもまた確かめたかった事なのである。急な展開の中影晴の命令でこちらに向かってきた迅に、何も言わず道を開けてしまった自分の両足に視線を落とし、彼は苦い思い出唇を噛んでいた。
ウィルのそんな内心など知るよしもない迅は、不意にす……っと恵玲から目をそらし、先程までよりずっと真剣みを帯びた声音で言ったのである。
「随分と大事なんだな、コイツらのこと」
迅の声に促されるように、目を閉じたまま壁にもたれかかる親友を見る恵玲。そんな彼女の心に、ささやくように言った迅の台詞がするりと入り込んできた。
「オレ様だったらそんな大事なダチの記憶、消したくないけどな」
痛いところを突かれ、恵玲が弾かれたように目を見開く。そのまますぐ悔しそうに顔を歪め、体の横で強くこぶしを握る。その会話を横で聞いていたウィルも、まるで恵玲の心が乗り移ったかのように、胸が震えてならなかった。
しかし恵玲はそこで黙っていられる人物ではない。今度ははっきりと迅を睨みつけ、「あんたなんかに何が……」そこまで言ったところで、ふっと口をつぐんだ。彼女は目をそらしたままの迅の顔を、驚愕の表情で凝視している。横から口を挟んでいい雰囲気ではなく、ウィルはただ眉をひそめて2人を交互に見つめていた。