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Enjoy Club 第7話『友を取り巻くモノ1』(8)  ( No.890 )
日時: 2011/03/19 20:30
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)

 その突然のよくわからない緊迫した雰囲気を壊したのは、相変わらずだらんとした姿で恵玲の横に並んだ迅だった。彼は急にあっけらかんとした口調になって、恵玲の先の問いに答えたのである。

「そういや危害の方は何も心配いらないぜー。なんてったってオレ様クオリティーだからな! 心配する方がバカだっつーの!」

 軽い口調ではあるが頼もしい彼の台詞に、恵玲は口元だけ微かに笑みを浮かべる。それを見てにっと白い歯を見せて笑った迅は、早速並んで座る亜弓と風也の前にしゃがみ、まずゆっくりと風也の額に手を伸ばした。が、シルバーの指輪がいくつもはめられた右手の指先が額に触れたところで、迅はふと影晴の方を振り返った。

「今日の分だけ封じとけばいいんすかー?」

 迅の間延びした声に、こちらの様子を腕を組んで眺めていた影晴は、いや、と首を横に振る。

「今までE・Cと接触したときの分も消してもらわないと意味がない」

 「げっ」と声に出して思いっきり顔をしかめる迅。そんな彼に水希がためらいながらも、情報を与えた。

「5月1日の小松家での任務消してもらわないとだめだよね」
「あ、あとぼくもこの間の水曜日に金髪くんと接触しちゃってるから、そこもお願いしたいな」
「あたしがE・Cと関係なく亜弓と接触した分はぜ〜ったいに消さないでね」

 水希の台詞を引き金に次々と加わっていく任務内容にげんなりとした表情を浮かべた迅は、そのままの流れで、まだ口をきいていない白波に話を振った。

「そこの背の高いあんたはなんもねぇよな?」

 突然話を振られて反応が遅れているのか、口を開く様子の無い白波。その隣でウィルはハッとあることを思い出して、思わず白波の服の袖をつかんでいた。

 いるではないか、白波が個人的に接触した人物が。もちろん白波自身も気が付いているだろう。一見表情は変わっていないように見えるが、きっと今胸の中では様々なことを考えているはずだ。紫苑風也と話したことを。それを今、紫苑風也の記憶から消すべきだということを。
 しかしウィル個人的には、それはあまり気の進まないことだった。どういう関係なのかがいまいちよくわからないが、あの白波がある程度他人とは違う存在として見ている人物なのだ。それだけでもウィルとしてはとても重要な存在なのである。できれば消えてほしくない関係だった。加えてよく考えてみれば、白波はE・Cであることを明かす前に風也と接触しているはずである。その時の記憶であれば、残しておいてもそれほど支障はないかもしれない。
 ウィルは一瞬ともとれる時間の間に、ざっとそのようなことを考え、白波の顔を見上げて、語尾を強調して尋ねた。

「白波は金髪くんたちと個人的には接触して……ないよね?」

 じっと白波の興味のなさげな目を見つめていると、彼はちょっとだけ眉をひそめ、続いて風也の方にゆっくりと目を向け、

「あぁ」

と一言呟いた。もしかしたらこっちの意図に気づかずサラッと風也と接触したことを言ってしまうかもしれないと思い冷や冷やしていたウィルは、白波の台詞にほっと胸をなでおろしていた。しかし、基本的に鈍い彼が自分の意図に気付いているかどうかは正直怪しい。かと言って自分の意思で風也の事を黙っていたという方向も、あまり無さそうではあるのだが。
 とにかく結果オーライということで、迅に、「そういう感じで記憶封じ頼めるかな?」とさわやかな口調で尋ねると、彼はすねたように頬を膨らませながら、「お前ら簡単に言ってるけど無茶苦茶難しいんだからな、時間指定すんの!」と文句を垂れた。すぐに恵玲が、「そこは“オレ様クオリティー”で頑張ってよ」と彼をからかっていたが。

 するとそこで、今まで黙っていた月下白狼のリーダー扇が、影晴に尋ねたのである。

「記憶を消した後2人はどうするんですか。まだ目は覚めなそうだし、家に帰したら確実に怪しまれますよ」
「あ、それは——」

 影晴が答える前に、ウィルは思わず声をあげてしまった。慌てて口を挟んだことを主に謝り、言葉を続ける。

「ぼくが2人を連れて行くのにいい場所を知ってるから、そこにテレポートで運びます!」

 扇が眼鏡の奥で目を細め、影晴が満足そうに微笑んでうなずく。

 同時に迅が伸ばした指に力を込め……

 この揺らぎ荒れた一日が、ようやく幕を閉じたのだった。