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Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(1) ( No.893 )
日時: 2011/03/19 20:20
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)


 黒に近い藍色の夜空。町の光のせいか全くと言っていいほど姿の見えない星。その中で唯一くっきりとした輪郭で浮かび上がる、満月。真昼の太陽に張り合うかのように白銀の光をめいいっぱいに放つそれは、どこか神秘的で、しかしどこか別世界の不気味な存在として目に映る。同時に月が放つ冷え冷えとした光は、まだじんわりと熱気の残る街にささやかな冷気をもたらしてもいる。

 人気の少ないさびれた下橋駅でたった1人電車を降りた月上有衣は、むき出しの腕にじんわりとにじむ汗に、整った顔を何のためらいもなくしかめていた。タンクトップで胸元の大きく開いた服にショートパンツという、できる限りの涼しい恰好をしているというのに、頬を流れる汗はそう簡単には止まってくれない。メイクが落ちるのも構わず頬をタオルで押さえていると、ふと何かの視線を感じて彼女はゆっくりと頭上を仰いだ。
 直後、彼女の口から小さく漏れる笑い声。グロスでつややかに光る唇が自然と弧を描く。ちょうど改札を抜け、小さな駅を出たところ。そこでふと立ち止まった彼女は、視線の先のものをじっと不思議な気持ちで見つめていた。

「月かよ……」

 自分の感じた視線は、他でもない満月だった。ばかばかしいとは思いつつもそこから目が離せず、有衣は自分でもあまり意識しないまま、駅の出入り口の段差に腰をおろしていた。派手なデザインのバックを隣に置き、両手を体のやや後ろについて月だけを見る体勢になる。そのままただじっと銀色の光を見つめていると、徐々に体から熱が奪われていくような、不思議な感覚に襲われた。汗がにじむほどの熱気が周囲を取り巻いているはずなのに、なぜか一瞬寒気に襲われ、両腕を組んで二の腕をさする有衣。自然と目つきが月を睨む形になり、その彫刻のように整った顔を月の光が淡く照らし出した。

 ——……寒そうだな、お月さまは。……寂し、そうだな

 直後、がらでもなくそんな感情をいだいてしまった自分がおかしく思えて、有衣は空笑いをもらした後、ゆっくりと腰を上げた。そして歩を進める前に、もう一度だけ月を見上げたところで。
 彼女はゆっくりと眉をひそめていた。月が放つ淡く白い光が、まるで自分から見て左の方向を照らしているような、そんな錯覚に襲われたのだ。正直、ひどく不気味だと有衣は感じていた。不気味な月だと。それでも彼女は好奇心が抑えられず、月が示していそうな方向——つまり左の方に目をやって、
 バッチリメイクを施した目を、大きく見開いていた。駅の出入り口近くの壁に設置された灯りがあまりに予想外なものを照らしていて、彼女は驚愕の表情のまま同様に満ちた声をもらしていた。

「おま、えら……」

 月の光が、まるでにやりと笑うかのように一瞬だけ揺れた。