コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(3) ( No.905 )
- 日時: 2011/03/22 12:14
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
- 参照: すみません、コメ返しは後で>< 2ページです
「下、降りるか」
唐突にそんな提案をした有衣に、私はもちろん快く賛成した。下橋という場所は初めてなのでどういう所なのか全くと言っていいほど基礎知識がなかったが、隣に頼もしい先輩が付いていてくれるのである。それだけでも十分心強くて、逆にここがどんな場所なのかと楽しみにまでなってきた。緊張と期待が入り混じったような、そんな気分なのである。
部屋を出て廊下を右に進むと、すぐに下に降りる階段があった。どうやらこの家は二階建てのようだ。下から複数のにぎやかな声が聞こえ、時折笑い声も漏れてくる。声からして小中学生くらいの男の子がほとんどだろう。その中に紛れた夜ゑの声を聞き取った私は、さらに勇気を得、しっかりとした足取りで初めて踏む階段を下りることができた。前を歩く有衣がこちらを振り返って、満足そうな笑みを浮かべてくれた。
階段の左側は家の壁に沿って作られているが、右側は手すりのみで壁は無いので、降りながら1階の様子を眺めることができる。
小部屋がいくつかあった2階とは違って、1階は全て吹き抜けの大きなリビングだった。階段を降りてすぐ左側には、仕切りなしに玄関のドアがあり、その脇の壁に靴箱が置かれている。玄関から見て左の壁にはI字型キッチン、反対側には16人が座れる木の長方形のテーブル。リビングの一番奥には、テレビとソファーが置かれている。
キッチンには夜ゑが、テーブルの周りには先程のにぎやかな声の元である10人くらいの男の子の姿があった。見たところ年齢層はばらばらで、皆動きやすそうな服装をしている。これから遊びにでも行くのかボールをもった子が何人かおり、待ちきれないといった風に足をバタバタさせている子もいた。早く、とせかす声があちこちから漏れ始めた頃、集団の中から黒髪ショートヘアで可愛らしい顔立ちの男の子が出てきて、「お待たせー! いこー」とバスケットボールを頭上に掲げ、皆を連れ猛ダッシュで外に出ていった。雪崩のような勢いで集団が目の前を駆け抜け、唖然として立ちすくむ私。
すると不意に、ポンっと頭に優しく手を置かれた。
「アイツら、朝っぱらから元気だよなー。夜くらいになるとエネルギー切れしてもうちょい大人しくなるんだけどよ」
有衣だった。その声に我に返った私は彼女に笑みを返し、元気いっぱいな先程の男の子たちに感嘆の息をもらしながら、階段を最後まで降りる。そして改めてリビングに目を向け、
「あ、あの、はじめまして」
慌ててぺこりとお辞儀をした。
集団がいなくなり、部屋に残っていたのは、どの人も私より年上の先輩だった。キッチンに立ってお茶を入れている夜ゑ。大きなテーブルに向かい合って座る2人の青年。一方は体格のいい銀髪の人で、もう一方は髪形や服装をオシャレに決め、整った顔立ちをした人だった。後者の比較的細身な方は、ルーズリーフに何かを書き込んで宿題らしきものをやっていたが、私の声に反応してわざわざ顔を上げてくれた。
「おっ、結構早く起きたじゃん」
程よく声変わりした、耳にすんなり入ってくる声。可愛いタイプの顔に気の良さそうな笑顔を浮かべる彼を見て、私は内心ほっと息をつく。下橋は不良のたまり場だとの噂だが、いい人もちゃんといるところのようだ。風也が以前、そのうち下橋に招待してくれると言っていたのも、ここがただの不良のたまり場ではないという自信があったからなのだろう。
私がここで休ませてくれたことに対してお礼を言っていると、コップをもった夜ゑがテーブルまでやって来て、宿題をやっている方の青年を指して言った。思わず図ってやっているのではないかと思ってしまうくらいに、完璧に出来上がった可愛らしい笑顔を浮かべて。
「この子がしーちゃん。あたしの下僕」
語尾にハートマークがつきそうな調子でそう言った夜ゑを、“しーちゃん”と呼ばれた青年は電光石火の速さで振り返った。
「誰が下僕だ、誰がっ。普通に三和伸次って紹介しろよ」
私はその会話を、目をぱちくりさせながら聞いていた。寝室の方での夜ゑの行動や表情に親切で可愛いという印象を抱いていたため、その彼女がこういうことを言うとは微塵にも思わなかったのだ。華やかな満面の笑みで言っているところもまた衝撃である。会って数分の関係なので彼女の性格をつかみきれないのも当然なのだが、第一印象からこういうズレをもたらす子は初めて見たと、私はなぜか驚愕と感嘆の入り混じる思いで彼女を見つめてしまった。
ふと視線を横にずらすと、隣に立っている有衣も下僕な青年——いや、伸次をしっかりと指差して遠慮の欠片もなく爆笑している。本当によく笑う人だ。しかもとても気持ち良く。彼女を見ていると、なんだか私まで頬が緩んでしまう。