コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(4) ( No.910 )
- 日時: 2011/03/24 21:00
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
- 参照: 無駄に長くなりましたごめんなさい、5ページです><
家を出ると、正面に10メートルくらいの長さの幅の広い道があった。あまり整備がされていない、ごつごつとしたアスファルトの黒い地面。歩行者と車を仕切る白い線やガードレールといった類は何もなく、端にさびたドラム缶が2、3個と、鉄網製のごみ箱が置いてあるだけだ。ドラム缶なんかはスプレーで落書きがされていて、“不良のたまり場”のイメージと合致し、少しだけ怖くなった。
その道以外にも、家を出てすぐ左右に延びる細い道があったが、功は迷わず正面の大きな道を進んでいった。歩幅の大きい彼においていかれないように小走りしながら、私はふと後ろを振り返る。いましがた私が出てきた彼らの家は、シンプルな真四角の建物だったが、周りと比べるとかなり新しいものに見えた。シックな茶色の壁も、まだつやが残っている。
今日も今までと別段変りなく異常な暑さだが、空気がねっとりとはせず乾いているだけ幾分かマシだった。ジリジリと地を焼く太陽が建物から半分顔をのぞかせているが、道の両側を挟む廃墟のような低い建物が日陰を作ってくれているため、こたえるほどではない。このまま日蔭の続く道だったらいいな、などと贅沢なことを考えながら、斜め前を歩く功にどうにかついていく。すると不意に彼がこちらを振り返り、しまったというような顔をして歩くペースを緩めてくれた。
彼は他のメンバーと比べると、特別ファッションに気を遣っている様子のない人だった。かといって別にセンスが悪いというわけではない。流行に敏感そうな下橋の人にしては、白いロゴ入りのTシャツに長ズボンという至極シンプルな格好をしているというだけである。しかし少し見たところだと、ピアスや指輪などのアクセサリーの類は身につけているようだった。それに反して、かなりファッショナブル……というか、特徴的な髪型。少し硬そうな質の銀髪は、前髪の右半分だけが目を余裕で隠せるくらいの長さで、残りはオールバックにしている。しかしなぜかその独特の髪型が、彼にはしっくりくるのだ。
「あ」と彼が声をもらしたのは、つきあたりを右に曲がったときだった。ちょうど私が、首の後ろにかいた汗に顔をしかめ、髪を結んでこなかったことを後悔し始めたころだ。彼はこちらを見て、低音の穏やかな声で言った。
「クレープ、食べるか?」
たぶんその瞬間の私は、うれしさとその倍にもなる恥ずかしさがないまぜになったよくわからない顔をしていただろう。一瞬にして顔が真っ赤になった私を見て、最初はごく平静な顔をしていた功が不審げな目つきになる。しかしそれは私の目には入らず、ついさっき自分が夢の延長で、「クレープー!!」と叫んだことを彼まで知っていたことへの恥ずかしさに、私はついまくしたてるように言ってしまった。
「そ、それっ、夜ゑ先輩に聞いたんですか!? 本当に恥ずかしいのです……っ」
両手を頬に添え本気で泣きそうになっていると、わざわざ立ち止まってくれた功はなぜか不思議そうな顔で首をかしげている。何と声をかけたらいいのかわからない困り顔のようでもある。それを彼の背が高いために上目遣いになりながら盗み見して、私はようやく頭を落ちつけた。いいのか悪いのかよくわからない予感が頭の隅をよぎった。
「えっと、もしかして……聞いてない……」
私の独り言に近い問いかけに、彼はちょっと目をそらして頭をかきながら言う。
「ん……夜ゑには何も聞いてないけど……。ほら、あれ、あそこにクレープ屋あるだろ。そろそろ腹減ってきたんじゃないかと思ってさ」
ぽかんと口が開く。
——……わ、私のバカ〜っ!
思わず頭を抱えて全身で叫びたい気持ちになった。彼のせっかくの親切心を、こちらの勝手な妄想で台無しにしてしまったわけだ。彼が優しい人なだけに、強い罪悪感にかられた。
しかしそんな私の心の中の葛藤など知らない功は、全然気にしていない風な顔で、「大丈夫か?」などと心配の声までかけてくれる。慌ててこちらの勝手な勘違いであることを彼に言うと、わずかに首をかしげながらもわかったという風にうなずいてくれた。