コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.10 )
日時: 2011/09/03 00:36
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『第二話 萩原さんのお仕事』2‐1

夢の世界。
それは自由な世界だと言うが私はそこまで夢で自由になった覚えは無い。
大抵の夢は意味のわからないものを見て意味のわからない事をして意味のわからないまま目覚める。
訳のわからない言葉の羅列だがそれは、『夢だから』の一言で片付いて仕舞うだろう。
それだけ『夢』というものは不思議な何かを持ち合わせているのだと思う。

だが、私は現実でも意味のわからない事になっていた。
夏休み明けに転校という珍しい事象を携えてやって来た男にいきなり所構わず『結婚』という事象を突き付けられ、当然の如く断ったら今度は私の事を知りたいと言う。
本当にわからない男だ。
恐らく私がこの男を理解することは一生無いんだろうな。
そんな事をおぼろげに考えていると突然の衝撃に私は飛び起きた。


「こら! 萩原!! 授業中に寝るな!!」
目の前に怒りを携えた中年の顔が在る。
どうやら教科書で頭を叩かれたようだ。
不覚にも寝入ってしまっていたらしい。
だが仕方ないだろう、今受けている授業は『数学』という文系科目好きの私にとっての一番の宿敵なのだから。
親の負担を少しでも減らすため姉は国立大学に行っている、私もそれを見習い大学は国立と決めているのだが、如何せんこんな状態ではそんなのは夢物語で終わりそうだ。
夢と言えば私はさっきまでどんな夢を見ていたのだろうか?
忘れてしまった。
「聞いているのか!」
またしてもどなり声、私は適当に頭を下げ許してもらおうと思ったが数学教師吉崎は私に、黒板の問題を罰として解け!
とか言いだした。
仕方なく黒板の前に立つ私。
とてつもなくみなの視線が痛い、木内だけが心配そうな顔で見ている、後は半笑いだ。
「……」
当然ながら理解不能だ、つーかわかるわけ無いだろう?
数字がどこか別の次元の言葉に見える。
だが、時間というものはこんな居眠り女にも平等に降り注ぐらしく。
キーン、コーン、カーン、コーン。
という今日一日の授業の終了を知らせる音が学校中に鳴り響いた。
「……、今日はここまで、次の授業のはじめに萩原にはその問題に答えてもらう、以上」
そう言って、不機嫌な顔で吉崎は教室を出て行った。
助かったとは思ったが、次の授業で不安要素が増えてしまった、後で木内に答えを教えてもらうとしよう。
だが、そんな暇は在るだろうか?今日は【エコ会】の活動があり、昨日。
『俺、この同好会に入ろうと思う!』
とか抜かした男の初めての【エコ会】デビューだ。
まあ、デビューというほどのものでもないが……。
その新人エコ会員藤堂奏の方を見ると。
「zzzzzz」
机に突っ伏して寝ていた。
アレ?私は怒られてなんであいつの耳にはどなり声を叩き込まないんだ吉崎センセ?
これは男女差別という奴か?


コンコン。
「どうぞ〜」
返事が在ったので会室に入る。
会室と言えば勿論【エコ会】の事だ、数々の試練(嫉妬の眼と奇異の目—小説のタイトルになりそうだな)を乗り越え私は放課後のこの安らぎのひと時を満喫するために、HRが終わった瞬間木内の手を引き駈け出して来たのだ。
何故か後ろに無神経熱血バカも走って追いかけてきたが。
「あ、先輩方。お早いですね」
部屋に入った途端後輩の声を聞く。
お前の方が私たちより速いがな浅木。
そんな感想を抱きながら私、いや私たちは部屋に入って思い思いのいすに座る。
目の前にすぐに四人分の麦茶が置かれた。
私はそれを一口啜ってから、目の前に陣取る男に話しかけた。
「それで藤堂、昨日帰り道に言っておいたものは持ってきたか?」
「ああ、軍手にゴミ袋に、あと、三角巾とマスクだろ?」
その通りだ、これは活動に欠かせないものなので昨日のうちに持ってくるように言っておいたのだ。
忘れてきたらどうぶん殴ってやろうかと考えていたのだが、その考えはどうやら実行に移せないらしい。
残念だ。
「ねえ、琳奈」
「どうした?」
木内が話しかけてくる、どこか困った表情だ。

「私軍手忘れちゃった……」

沈黙
流石に木内を殴る事は出来ない、どうしよう。
代わりに藤堂を殴っておこうか?
「ちょ、なんでにじり寄ってくるんだ萩原!寄って来てくれるのは嬉しいがそれは系統が違う気がするぞ!?」
気持ち悪い事を言われたので中断する。
「あ、木内先輩。僕が予備の軍手持っているので、良かったら貸しましょうか?」
「あら、ありがとう浅木君」
ニコニコ笑いながら木内が浅木から軍手を受け取る。
流石ミスター気遣い浅木隼人だ。
抜け目がない。
「それで萩原、他のメンバーはいつ来るんだ?」
「ん、そのうち来るさ、あの人たちはいつも遅れてくるんだ」
他のメンバー。
会長と副会長の事だ。
彼と彼女は委員会なども掛け持ちしているので結構忙しい、高三だから受験関係の何かもあるのかもしれない。
「なあなあ、その二人ってどんな人たちなんだ? 木内曰くずいぶん面白い人たちらしいじゃないか?」
キラキラした目で藤堂が問いかける。
反対に私は冷めた目で木内をみた。
「余計な事を吹き込むなよ」
木内は返事の代わりにウインクしてきた。
……、いや、ウインクされても私は女だからときめかないぞ?
浅木はなんか顔が赤くなっているが。
「そうだな、会えばわかると思うが、なにがあっても冷静でいた方が良いぞ?」
「?」
私の言葉の意味が解らなかったのか藤堂は眉をひそめる。
私はそれ以上言葉を紡がず、のんびり麦茶を飲んで、会室のドアがノックされるのを待った。