コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.12 )
日時: 2011/09/03 00:41
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『第二話 萩原さんのお仕事』2‐2


「ああああああ、暑い暑い暑い! むしろ熱い!! おいおいおい、なんなんだよこの暑さは! 今10月だってのによ! 地球温暖化の馬鹿野郎!!」
随分と乱暴な口調に成りながら、藤堂は雑草をやったらめったら引き千切っている、どうしようもなく苛立っているようだ。
そんな状態を見兼ねて私は藤堂に声をかける。
「五月蠅いぞ藤堂。この位【エコ会】では楽な方だ。おまえは私たちの『仕事』がどんなだと思ってたんだ?」
その言葉に藤堂は淀んだ瞳を私に向けながらぶつぶつと返答した。
「【エコ会】って名が付いてんだからきっと公園でボランティア活動とかすると思ってたんだよ!」
「それなら予想通りじゃないか?」
今私たちエコ会員は公園に来てボランティア活動に励んでいる、藤堂の予想通りだと思うのだが……?
「あのなぁ、俺の考えるボランティアってのは公園のごみ拾ったり、分別の出来てないゴミ箱を分けたりするようなもんなんだよ!」
段々ボルテージが上がってきたのか、藤堂の顔が私に近づいてくる、あと一センチでも近づいてみろ、私の拳がお前の顔面にめり込むぞ?
そんな私の思考を知ってか知らずか藤堂はここ一番の大声で叫ぶ。
「なのになんだ今俺たちがやっている『仕事』は! ゴミ袋持って! 軍手嵌めて! 三角巾して! 汗をだらだら垂らしながら公園中の雑草を刈り取ってんだぞ!!」
「十分ボランティアだろ?」
私の冷めた声にがっくりとうなだれながら、藤堂は先ほどの叫びで余力を使いきってしまったのか小声で喋ってくる。
「明らかにボランティアの範囲を超えてるぞ、よしんばボランティアだとしても明らかに六人でする仕事量じゃねえよ……」
ため息を付きながら藤堂は蚊の泣くような声で言う。
もう慣れてしまった私にはわからない感情だ、そう慣れてしまった私には、これよりも遥かにだるい、いや辛い【仕事】というより【事件】に関わってきたからな。
それは、あまり語りたくない事でもあるわけだが……。
「だが、一番疲れる原因はあの人かもしれないな……」
そう言いながら藤堂は今雑草を排除していた花壇から後ろに目を向ける。隣にいた私も後ろを振り向いてみた。
そこにいたのは。

「ほらぁ、なぁ〜にへばってんのさ浅木後輩!! 血反吐吐くまで休むじゃないわよ! 敢えて吐いても休んじゃ駄目よ!」
「ヒィ! そんな無茶な!」
「ちょ、辞めろこのアホ! 隼人君が可哀そうだろうが! つーか、おまえみてえな頑丈な人間なんざめったにいなんだよ!? 琳奈ちゃんや奏君の方が珍しいんだから! ほら、希ちゃんも疲れちゃってベンチで休んでんじゃないか!」
「な! 木内後輩! あんたも何休んでるんじゃあ! ちゃきちゃき働けこの野郎!!」
なんて事を笑顔で言っている女性とそれを必死で止めている疲れた顔をした男性だ。
「確かにあれは強烈かもな……」
「だろ? 俺会室で初めて会った時はビックリしたよ、世の中にはあんな人が居るんだな……」
藤堂のそんな言葉を聞き、私の記憶は副会長と会長に藤堂が初めて会ったときにまで遡って行った———


———コンコン
ノックの音がドアから聞こえる、浅木がいそいそとドアを開けようとした時。
バァン!!
という音が会室に響く、そしてそのあけ開かれたドアから一人の女がズカズカとはいって来ていきなり叫ぶ。
「ヤッホォオオオッ!! みんな元気ィ!? 私は元気だこんちきしょう!! さあ、我が同好会に入りたいと言っている勇気ある男はどこにいるんだい!?」
ニッコニコした笑顔でそんな事を言った女性は見慣れない顔である藤堂に目を付けたようだ。
「おおう! 君かい!? 名前はなんていうの?」
「と、藤堂奏です」
「良い名前だ! 海と大地の恵みを感じさせるね! さあ、君がこの同好会に入る事は最早決まり切ったことで一々確認をとる必要はないね?」
大地の恵みは置いといて、藤堂が【エコ会】に入るのが決まり切った事になっているのは恐らくこの女性、清水 恵美(しみず めぐみ)にとってだけだろう。
その清水先輩、【エコ会】の副会長というポストに就いている女性は短い髪を整った顔の前で揺らしながら嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「さてさて、では学校と云う呪縛から解き放たれた幸運にして不幸な少年少女たちよ! いざ行かん我々の使命を全うすべき場所へ!」
突っ込みどころが多すぎてどこから言えば良いのか解らない、とりあえず学校を呪縛というのは貧民層の人間にかなり失礼だ。
私が副会長に対処できずにいると救い主が、開け放たれたドアから駆け込んできた。
「おいこらアホ女! 俺が行くまで待ってろって言ったでしょうが! って、コラ! お前変な事言ったな! 新人君あっけにとられて呆けちゃってるじゃないか!!」
入ってきた救い主は、疲れた顔をしている男性で。
なんと言うか、不細工ではない整った顔をしているのだが、如何せん顔に疲労が現れているのが少々痛々しい。
この人が我が【エコ会】の会長風宮 来夏(かぜみや らいか)だ。
そして、私が恩を感じている人間の一人でもある。
そんな風宮先輩—会長が藤堂に迫っている副会長を必死で羽交い絞めにしている、いつもは浅木や木内が被害に会っているのだが、今日は藤堂という副会長にとって旨味のある人間が居るので安心しきっているようだ。
木内は副会長に負けず劣らずの表情で藤堂にニッコリと笑いかけている、私にはそれが『ほら、私の言った通り面白い人たちでしょ?』という表情のように見えた。
残念な事なのだが木内、その面白い人たちを見て藤堂はかなり引いているようなのだが……。まあ、あいつがこれ位で【エコ会】に入るのをやめてくれるのなら、私もありがたい事ではあるのだがな。
私はそんな風に考えながら浅木が私の麦茶が入っていたコップが空になったのを何時気づくのか時間を計って、副会長が落ち着くのを待ってみることにした……。