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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.16 )
日時: 2011/09/03 00:50
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

『第二話 萩原さんのお仕事』2‐5

休憩を5分程度で切り上げて、私たちは仕事を再開していた。周りを見渡すと、公園は邪魔なものが消え、だいぶすっきりした感じがする。
今までなら、公園の雑草駆除は二日間使ってやっと終わっていたのだが、今回は藤堂という新たな戦力が居たので一日で終了という、ハイスピードな結果になりそうだ。
「お〜い、みんなぁ〜」
そろそろ、終わりにしようかと言う空気になったときに、会長の風宮さんが歩いてこっちに来る。どうやら、用事とやらは終わったようだ。
と、そんな彼の姿を見た瞬間、副会長が会長にはしって近寄り、ボディーブローをかました。
「ぐはっ!」
「おそいわこのアホンだらぁ! 今までどこで油売って……」
技を綺麗に会長にかました副会長は、会長を吹っ飛ばしたことで、後ろにいる小柄な人影に気づいたようだ。
「あ、あれ? 浦木のおばあちゃん!?」
浦木さんと言われた小柄な人影は、会長が吹っ飛ばされるのをみて、コロコロと品よく笑いながら、副会長の方をみる。
「あらあら、恵美ちゃん。すこしばかり愛情表現が厳しいわよ?」
浦木さん。
彼女はこの近くに住む独り身のおばあちゃんだ。昔はご主人と一緒に暮らしていたのだが、去年ご主人が他界してしまい、一人で暮らすことになってしまっている。
そんな彼女に私たちは近寄って挨拶を交わす。
と、そこで会長がせき込みながら起き上がってきた。起き上がりながら副会長を睨むが、当然のように彼女は意にも介さない。
そんな状態の会長に、私は疑問を口にする。
「あの会長、なんで浦木さんが?」
「ん? ああ、今回の依頼人が浦木さんだったからね、仕事が終わりそうです、って報告に言ってきたんだよ」
それは、予想していた事だが、それなら彼女をわざわざ公園に連れてくる必要は無いはずだ。
そんな私の考えを読み取ったのか、会長は少し微笑んで言った。
「実は新人が入ってきた、って言ったら、是非会いたいって言われるからさ」
新人。藤堂の事か、浦木さんは依頼人の常連だから気になったのかもしれないな。
と、自分の事を言われていると知った藤堂は、少し身をこわばらせた。
そんな藤堂に、浦木さんは柔らかい笑みを浮かべて言う。
「あなたが、新人さん? お名前はなんていうのかしら?」
「と、藤堂奏です! こ、こんにちは!」
もう夜なのでこんばんはだ。
「ふふっ、来夏君にきいたわよ? 琳奈ちゃんが目当てで【エコ会】に入ったんですって? 若いっていいわぁ」
なんで、そんな事教えてんですか会長!
私が睨むと会長は苦笑してこっちを見てきた。そんな顔されても困るんですが……。
「い、いえ、そんな」
何故か緊張している藤堂を見て、浦木はさんは目を細めながら、優しく語りかける。
「私はね奏君、この子たちの事が好きなの。あなたは遠いとこからここに来たらしいから、まだよくこの町の事を知らないかもしれないけど、悲しい事にこの町は治安が悪いわ」
浦木さんは若干暗い感じで言う、だが、そのあとにひまわりの様な笑顔で続きを紡いでいく。
「でもね、私はこの町が好きなのよ。子供のころからずっとここで暮らしてきて、夫と出会い暮らしてきた。この町が大好きなの。そして、この子達は私に言ってくれたのよ、私たちがあなたやあなた達の好きなこの町を、守り続けていく。って」
だから、と町を愛する老人は続けて。
「あなたがどのような経緯で、この町に来たかは知らないわ。だけど、あなたが此処で暮らしていくと言うなら、この子たちの仲間になると言うなら」
浦木さんは最後まで綺麗で優しい笑顔で言った。

「この町の事、愛してあげて頂戴ね?」




雑草駆除の仕事を終え私たちは帰路に付いていた。
達といっても、今私と居るのは藤堂だけだ。他のみんなは帰る方向が違うので、途中の道で『また明日』といって別れた。
「なあ、萩原」
「ン? なんだ、そんなしんみりした顔して?」
「浦木さんいい人だったな」
そうだな、と私は返事をする。
彼女は仕事が終わるまで一緒にいてくれた、そして仕事が終了してあたりが真っ暗になっても、まだ…、そして、皆に笑顔を振りまきながら『ありがとう』と何度も何度も言っていた。
「俺さ、今まであんなに自分の住んでるとこ愛している人初めて見たよ、前すんでたとこは、皆暗い顔してたからさ……」
多少影のある顔で藤堂は言う。
きっと前すんでいたとこには色々在ったのだろう、だがそれを聞く事は私はしなかった、代わりに違う事を言う。
「この町の事、好きになれそうか?」
私の質問に藤堂は、
「わからない、まだ、そう言い切れないさ」
まだ、こいつは一カ月位しかここにいない訳だからな、そう返すのは当然だろう。
そう思っていると、藤堂は突然立ち止り私の目を見て言う。
「だから、俺【エコ会】でお前の事も、この町の事も知っていきたいと思う。今日あの人を見て心底そう思ったよ」
強い瞳だった。藤堂奏という男の意志が詰まっているような…。
私はその瞳にまっすぐに見据え返し、少し顔を綻ばせる。こいつのそんな考えには、少しばかり好感が持てたから。
「ッ!?」
そうしたら突然、藤堂は私から目をそらした、なんだ?いきなり。なんか少し顔が赤いんだが……。
「……お前、そんな顔で笑うのかよ……」
「は? なんか言ったか? 声が小さくて聞こえなかったんだが?」
「な、なんでもない!」
藤堂はそう言っていきなり背を向けて大股に歩きだす。おかしな奴だ、なんだと言うのか。
だがきっと、こいつはそこまで悪い奴じゃあない。
いい奴かどうかは解らないが、それでも私たちの【仲間】としてやっていける。
そう素直に思えた。
私は、そんな事を考えながら、また緩んでくる顔を直しもせずに、どんどん離れていく挙動不審気味な藤堂に、ちょっと小走りで駆け寄りながら、肩を叩いて言ってやった。
「藤堂」
「な、なんだよ?」


「初仕事、お疲れ様」




———————『第二話 萩原さんのお仕事』了