コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.23 )
- 日時: 2011/09/03 00:55
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs/index.cgi?mode
『第三話 萩原さんの休日事情』3‐2
「ええ〜と、ここを右に曲がって……」
最近めっきり外は寒くなり、秋の訪れを強調していた。
つい二週間前の草刈りではあんなにも暑かった記憶が在るのに、天気というのは随分身勝手に、人類に体温調節を強いてくる。
かく言う私もいつもの服に薄いセーターを着ている。
私はどちらかというと暑がりなので暑いよりは寒い方が好きな方だ。
そしてそれは人間にも当てはまることでもある……。
「お、ここが『BARロゼリオ』だから、あとちょっとだな」
目印である古風な大人な感じのするお店をみて、目的地が近い事を知る。
中々趣のある店で窓ガラスから店の中を覗くと、狼みたいな鋭い目をした青年とその青年よりちょっと歳が上な感じがする、大人しい感じの女性二人組が、カウンターの傍にある椅子に座っているのが見える。
カップルか何かだろうか?
「はぁ〜、あんな若いのに良い御身分だな」
思わず独り言。
私にはこんな高級な店に入った覚えがない、そもそもこっち方面に来た覚えがあまりない。
私たちの住む【市】は地図上の上と下によって、建造物やそこに暮らしている身分にかなり違いがある。
上に行けばいくほど都市に構造が近く一般的に【街】と言われる。
逆に下に行けばいくほど【町】と言われ若干田舎っぽくなる。
もちろん正式には一つの【市】なので関係ないが、そういう風に区切られているのが現状だ。それが親しみによってなのか差別によってなのかは知らないが……。
私が住んでいる家や、通っている学校は真ん中より若干下に位置する。その影響で【街】のものより若干設備が不便だ。もっとも昔から【町】に住んでいる私にはよく解らない事だが。
「やっぱり全然違うなぁ〜」
実際に、【町】に近いとはいえ【街】に来てみると違いがわかる。
なんというか、新潟から福岡に来たみたいな。
……違いが解りずらいたとえな気がするが、きっと気のせいだろう。
そして、私が今回わざわざ歩いて【街】に来たのは弟のパシリをしているからだ。
ニュアンスは実際には若干違うが、だいたいそんな状態なので間違ってはいない。
【町】に電化製品を売っている店も在るには在るが、質が悪い。ゲームはパッケージに入っているから関係ないかもしれないが、一様良いものを買って来てやりたいという姉心だ。だが、そのせいで歩く距離はかなり長くなってしまった。
まあ、来てみるとそこまで嫌でもない。こうやって普段見慣れないモノが多くある場所に来るのは、中々楽しいものだ。
普段本とか服とか生活必需品を買うのは【町】で事足りるからな。新鮮な空間に柄にもなく気分が高揚しているというのもあるが。
と、『BARロゼリオ』を通り過ぎて路地を左に曲がると、ようやく目的地である電気屋を見つける、そしてその建物をみた瞬間。
「でかッ!」
思わず大きな声で言ってしまった。通行人に奇異の目でみられて若干照れくさい。もっとも表情には出ていないだろうが。
私は【ラエックス】という看板が見える巨大な電気屋をもう一度みあげる。
とてつもなくでかい、きっと田舎モノの私だからそんな風に感じるのだろうが、普段行っている電気屋に比べると、比べるのが悲しくなる位だ。
「何円掛ければこんなに立派なのが建つんだ? 億単位なのは当然だよな……」
少々下世話な事を呟きながら【ラエックス】の入口に近づいていく。
そこで私はもう一度驚く事になった。
「なんなんだよ、この列……」
入口に付いた時私を待っていたのは、人、人、人。
ズら〜ッ、と並ぶ人の列だった。最早巨大な蛇のようだ。
なんでこんなに並んでいるのかは大体想像がつく。
「私と同じ目的か」
正確には弟だが。きっとこの人だかりは『DEAD BLACK』とか言うゲームを買いに来た人たちなのだろう。雑誌であんなに宣伝されていたのだから、きっと皆この日が来るのを待っていたのだろう。
開店時間は午前十時らしいから、現在時間と照らし合わせると、後十分で時間になる。
この人たちは私と違い、二時間も三時間も前から並んでいるのかもしれない。
「ゲーム買えるかな……」
少々不安になってきた。これで売切れだったら目も当てられない。
といううか弟に顔向けできない。
あの無邪気な笑顔を思い出しながら憂鬱な気分になっていると、いきなり私に声を掛ける者がいた。
「アレ? 萩原?」
その声は聞き覚えのある忌々しいほどに爽やかな、暑っ苦しい男の声だった。
嫌な予感がしながら声のした方に顔を向けると、案の定予想していた面があった。
「藤堂……」
私が短くその固有名詞を言うと。暑苦しい爽やか男藤堂奏は笑顔を向けながら、恥ずかしげもなく一言私に告げた。
「奇遇だなぁ! それはともかく私服もかなり似合ってて美人だよ!!」