コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.3 )
- 日時: 2011/09/03 00:30
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
- 参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000
『第一話 萩原さんの日常』1‐2
「おい! ちょっと待てよ!!」
五月蠅い奴だそんな大声ださなくても聞こえてる。
「なんだよ、なんで怒ってんだ?」
怒っている? 怒ってなどいない、無視をしているだけだ。
「なあってば!」
「ああ、うっさい。なんで付いてくるんだ」
私は後ろを付いてくるバカ男に顔を向け、思いっきり不機嫌な顔を作って睨んでやった。
「いや……、どうせ学校行くなら一緒に行こうかと思って……」
そんな私の顔に少し怯んだのか少し後ずさりながらバカ男———藤堂 奏は答えた。
「良いか藤堂? 私はお前と共に学校の道程を歩くつもりは全くない」
「なんでだよ?」
なんでだと?この男どうやら根っからのアホらしい。
「どんな人間でもあんな頭にキノコでも生えてんのかと思うほどのアホらしい告白をクラスメイトがまだ一杯いた教室で受けたら不快になるに決まってるだろうか!!」
一息で言ってやった。
「うぐっ、いやそれは俺の猛る気持ちを伝えたくなってしまって……」
猛る気持ちって……、お前は発情期の犬か何かか?
「藤堂」
「なんでしょうか?」
私の冷たい音程を奏でる言葉を聞いて、藤堂は思わず敬語になった。
「私だって普通の告白だったら何もここまで言わんだろう、もしかしたら少しは付き合う等などに関して考慮したかもしれない」
だがな、と続けて。
「おまえは仮にも自分の好きな相手の気持ちを考えず、クラスメイトの前で堂々と告白してくれやがった。しかも結婚があーだ—こーだ、と抜かしてな」
藤堂はひたすら戸惑った目でこちらを見つめてくる。
「そんな人の気持ちも解らない男と付き合う気はないし、まして結婚なんてありえない。解ったら私より先に学校に行くか、後に行って遅刻でもしてろ!」
そう言い放って、私は学校に一人茫然とした様子の藤堂を置いて振り返らずに歩いて行った。
その日の朝の学校での時間は最悪だった。
教室に入った途端にクラスメイトになんだかキラキラした瞳を受け、一部の女子に嫉妬の眼で見られた。
残念なことに藤堂という男はそれなりに整った顔の男だ。
部活等には入って無いがスポーツもそれなりにできるし、今年の九月。夏休み明けに転入してきたという噂のネタに尽きなさそうな迷惑極まりない男なのだ。
当然ファンも多い、そんな人間が何故私に告白などしてくるのだろうか?
こんな男口調で無表情、そんな私を……。
どうせならどっかでキャピキャピした女でも引っ掛けて付き合えばいいのに。
本当にメンドクサイ。
そんな感じで私はその日の授業を何とか人からの視線(あるいは死線)を切り抜け、放課後になった途端に教室から飛び出した。
放課後になればこっちのものだ、さっさと行くべきところに行ってこの重圧から解放されよう。
私は教室や職員室などがある《本館》から部室や体育館などがある《別館》に、渡り廊下を使って移動した。
行くべき所は一つだ。
【地域環境保全ボランティア同好会】
ここが私の学校での安住の地と言っても良いだろう。
この同好会が何をする所なのか一々説明は要らないと思う。
その名の通り地域の環境を守るため色々なボランティアをする同好会のことだ。
私はいつも放課後ここに向かう。
理由は色々あるが抽象的な言い方をするなら、私が私らしく居られるところだから……とでも言っておこうか。
軽く小走りに同好会の部屋がずらっと並ぶ《別館》二階の一つの部屋をノックする。
「どうぞぉ〜」
中から男の声が聞こえ私は入る。
そこにいたのは二人の男だった。
一人は浅木 隼人という男だ。
女みたいな中世的な顔だちに線の細い体、どっからどう見ても【男らしい】という単語が当てはまらない奴だ。
「あ、萩村先輩! なんかお客さんですよ?」
その高一の同好会仲間の後輩に言われ、そのもう一人の男に目をやる。
流石に茫然とした、ここまでしつこい男とは……。
確かにオカシイとは思ったんだ。
授業の後の休憩にも昼休みの間にも全くちょっかいを掛けてこなかったからな。
でもそれは朝の私の言葉を受けてのことだろうと思っていた。
考えが甘かったようだ。
そのもう一人の男は言うまでもなく。
「よう萩原! お邪魔してるぞ!」
藤堂奏だった。