コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.31 )
日時: 2011/09/03 00:57
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐3 2/2

「何やってんだあの人……」
「店員の服着てるからアルバイトだろうな。でも俺良く校則知らないけど、確かうちの高校アルバイト禁止だよな?」
「……どうだったかな」
ここで認めると色々駄目な気がしたので、適当にぼかして藤堂に答える。
【エコ会】の人間が校則を違反してるなど、生徒会長がタバコ吸ってる事と同義なのだが……。
といううかあの人、委員会は風紀委員に所属してるんじゃなかったっけ?
かるくため息をつきながら、目の前で叫んでいる女性———清水恵美エコ会副会長を見る。
そんな私たちの視線に気づいたのか、彼女はグルリとこちらに首を向け、先程と同様のテンションで叫ぶ。
「おお! 後輩たちよ! こんな休日にデートかね?」
「ば、違いますよ! 何言ってるんですか!!」
顔を赤らめながら藤堂が焦って否定する。
それもそうだろう。今の清水先輩の発言で、こちらにものすごい勢いで視線が集中したからだ。
さっきまでゲームを探してワイワイ騒がしかったのに、彼女の発言で嫉妬交じりの不気味な空気が流れる。
「はっはっは! 否定が早いと逆に怪しまれるぞ!」
「否定しない方が、不自然でしょう!」
「どっちにしろ、君と萩原後輩が一緒にいるってことが、あやしいのだにゃあ!」
「うっさいですよ先輩! なんですかその猫語! 店員なら店員らしく標準語喋って下さい!」
「してるじゃにゃいか!」
「どこが!?」
藤堂と清水先輩が馬鹿な言葉のキャッチボール、というよりドッジボールをしているうちに。私は目的のゲームソフトを手にとってレジに持っていく。
『DEAD BLACK』というタイトルロゴが目を引くソフトで、かなりの量が平積みなっているうえに、【新作!】という看板が近くに在ったのですぐに見つかった。
パッケージの前面にはなんだが男と女のイラストが美麗なタッチで描かれており、その真ん中に剣が突っ立っているという、よく解らない構図。という印象だ。
これだけだと、なんのゲームかよく解らないのだが、裏面をみれば大体のあらすじが書いてあるので、格闘ゲームだということは理解できる。
私が女性の店員さんに諭吉様(一万円)と一緒にソフトをレジに出すと、若い女性店員は苦笑いしながら、視線を周りの人間に集中されている私に会計を済まして。頑張って作ったらしい、にこやかな笑顔でお釣りを渡してくる。
わたしは軽く礼をしながら、そのまま、下に降りるエスカレータの場所に向かって歩く。
「じゃあ、犬語ならいいのかしら? まんぞくなのか、ワン!」
「適当過ぎます先輩! あと、そういう意味じゃありません!!」
背後に阿呆な言い合い続ける二人を完全無視しながら、ついでに老若男女による好奇の視線も無視して、私はいつも通りの無表情を作り出す。
私の十七年とちょっとの人生で、一つ学んでいる大事な事が在る。
それは、【面倒事からはさっさと逃げろ】だ。
私はその言葉に従って、さっさとその場を後にした。


偶然って言葉は絶対に在る。
じゃなければ先輩に今日会ったってことも必然ってことになってしまう。
そんな人生はつまらないだろう?
もっとも、藤堂と清水先輩と一緒にいると面倒事に巻き込まれる。っていうのは【必然】なんだけどな。
私はそんなどうでもいい事を考えながら、『ラエックス』の出口へと黙々と歩いて行った。
そして、その時は全く気付かなかった。
偶然という言葉はそこらにゴロゴロ転がっており、しかもその【偶然】は簡単に【面倒事】に代わってしまうと言う事に。
私の休日をあらゆる意味で【いつもと違う】風に変えてしまった【面倒事】は、一人の少年によって運ばれてきた。


ドン。
先程までいた店の出入り口から外に出た私に、突然腰のあたりに衝撃が走る。
何事かと思い視線を下に向けると、小さい影が私の体に密着しているのが視界に入った。
状況が良く解らないまま、とりあえず少年の顔を見てみると。
少年は大泣きしていた。
「え!?だ、大丈夫!」
思わず声を大きくして、屈んで少年に問う。
すると、少年はこちらに濡れた瞳を向けながら、なんともベタな言葉を涙を腕で拭きながら発した。

「お家が……、グズッ…、お家がどこか……、わかんないよぉ〜!」

どう考えても迷子だった……。