コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.37 )
日時: 2011/09/03 01:00
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐4

迷子———辞書で調べると大体こんな意味だ。
《自分の所在が分からなくなり、目的地に到達することが困難な状況に陥った子供、もしくはその状態を指す。》
つまり、自力で家に帰れなくなった小さな子供と言う意味なのだが……。
「う、うう。グズっ、グスッ。お母さぁ〜ん!」
何も私の前に現れなくとも良いだろう……。

『ラエックス』店外に出た途端在った少年。
来ている服は青を基調とした子供服で、今は涙の影響で顔がぐちゃぐちゃだ。
きっと母親とここらに買い物に来たは良いが、途中ではぐれてしまったのだろう。
こんな小さな子をほっぽって行くなんて、親としての自覚が足りない気もするが……。
だが、違う可能性もある。一様話を聞いて、面倒になったら近くの交番に届けてやろう。
そう考えを纏めて、私は自分よりかなり年下な少年に会話を試みることにした。
「ボク? お名前はなんていうのかな?」
「ヒッグ、グズっ、し、しんやっていうの……」
「しんや君かぁ〜。じゃあね、しんや君。しんや君はどうして、こんなところで泣いているの?」
「お母さんに…、お母さんに買い物頼まれて…。グズっ。一人でお使いは出来たんだけど、ェグッ。帰り道がわかんなくなっちゃったの…」
ほう、どうやら母親と来た訳ではなく、お使いと言う奴らしい。
言われて気がついたが、確かに少年———しんや君の右手には布製の買い物袋が握られており、中には人参やら、玉ねぎやらがチラッと見える。
それにしても布製の買い物袋とは……。【エコ】に対する意識が高い御両親で感心だな。
「そうか〜。じゃあ、お家がどこら辺にあるか分からないかな?」
「ェグッ、う、ううん。それがわかれば迷子にならないの!」
しんや君。嗚咽交じりに突っ込んできた。突っ込み体質がこんな小さなころから付いていると、将来困るぞ?
私がその証明だ。
「う〜ん。お家が解らないなら交番に行くしかないかな……」
適当にそう考えて、交番に連れて行こうと思ったのだが。突然しんや君が叫んだ。
「い、いやだ!! 交番はやめて!!」
「え?」
さっきまで泣いていたのに必死の形相になりながら、私の服をガシッっと掴んで言い放つ。
「なんでかなしんや君?警察は良い人たちだよ?」
「そ、そんなこと無いもん!! おじいちゃんが警察とは関わるな。って言ってたもん!!」
警察と関わるな?
おいおいおい、この子のおじいちゃんのご職業はいったい何なんだろうか。嫌な予感がよぎるが私はおそるおそる、目の前の小さな少年に聞いてみる。
「お、おじいちゃんはなにをやってる方なのかな?」
そう私が聞いた後。しんや君はしばらく難しい顔をして、ゆっくりと言った。

「え〜と、確かぼーりょくだんとか言うのの【ボス】なんだって言ってた!!」

……え?
ぼーりょくだん……。
暴力団?
暴力団!?
「暴力団んん!?」
あまりの衝撃に叫んでしまった。
叫びを聞いて、周りを歩いていた人間やしんや君がビクッっと震える。
その様子を見て私は平静を取り戻しながら、もう一度しんや君に聞きなおす。
「ほんとに!? ほんとうにおじいちゃんは暴力団なの!?」
「う、うん。悪い人たちをやっつけて、この【市】の平和を守ってるんだよ!」
「……、おじいちゃんはいい人?」
「うん! 顔におっきな傷があって怖いけど。とっても優しいんだよ!」
「そうなんだ……」
その言葉を聞いて私は段々思考が冷静になっていくのを感じる。

【市】を守る【暴力団】という事は【町】と【街】。両方を取り仕切っている【組織】の事だ。
私の父はこの辺りの警察署の警部なので、そういう話はよく聞く。
あまり給料が高くなく、いつも母に尻に敷かれているような父なのだが……。
まあ、それは関係ないので置いておいて、考えを元に戻そう。
そこまで強大な【組織】はこの辺りに一つしかない。この【市】に昔から居る【組織】のことだろう。たぶん。
深いところまでは私は知らないが、この辺りの治安が悪いのは、そういう存在が普通に居ると言う事も一因ではある。

面倒な事になってきた……。【暴力団】の祖父を持つ【少年】の【迷子】。
ここまでの面倒事が纏めて差し出されると、逆に笑えてくる。
まあ、今の私の表情は思いっきり無表情になっている事だろうが……。
「お、お姉ちゃんそんな怖い顔してどうしたの?」
「ん? いや、なんでもないよ。しんや君が警察はいやだって言うなら、お姉ちゃんと一緒にお家を探そうか?」
無表情を怖いと言われて、若干傷付きながらもひきつった笑顔でそう返す。そんなに怖いかな?私の顔……。
「ほ、本当?」
「うん。構わないよ。じゃあ、早速探しに行こうか?」
「ありがとう!」
全く皮肉だな。【警察】と【暴力団】。相反する家族を持つ者同士がこうやって関わりを持つなんて、本当に皮肉だ。
本来なら私もこの子に何かする道理は無いのだろうが、別に敵対感情を孫にまで向ける必要はない。
この子の帰りが遅いと心配する親もいるはずだ。
もっとも、その両親も【そういう仕事】をしている人たちかもしれないんだが……。

「さて、じゃあまずはどこから探そうか」
私が屈んだ態勢から立ち上がって、しんや君の手をはぐれないように握りながら考えていると。
後ろから声が聞こえてきた。
「お〜い。萩原〜!! 置いていくなんてひどいじゃないか! お陰で先輩に色々酷い目にあわされたぞ!」
「……」
「あれ? どうしたんだその子? さっき言ってた弟さん?」
馬鹿が店から出てきて、馬鹿な事を言っているのを聞きながら、私は考える。
「……やっぱり人手は多いほうが良いよな……」
「え? なんか言った?」
「藤堂」
「はい?」
藤堂の言った事をオール無視しながら、私は伝えるべき事だけ伝える。
「今からこの子と一緒に【街】探索をしないか」
「も、もしかしてそれは休日デートか!?」
「まあ、お前の意見なんか聞いてないからさっさと行くぞ。あ、そうだこの子の荷物と私の荷物も持ってくれ」
「……。さっきから無視しまくってないか?地味にきついんだが……」
なんだか涙目になっている藤堂にしんや君と自分の荷物を押しつけながら、私は普段見慣れない【街並み】に繰り出す事にした。
もっとも。
「この変なお兄ちゃんはだぁ〜れ?」
「へ、変とはなんだ! 変とは!」
【暴力団の孫】と【熱血馬鹿】が随伴している、どうしようもく奇妙な集団だった訳だが……。
「実際変だろお前」
「ひ、酷いな、萩原まで!! 一体俺のどこが変なんだ? 言ってくれ直すから!」
「全部」
「範囲ひろっ!!」

どうやら今日は面倒な休日になりそうだ。