コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.38 )
- 日時: 2011/09/03 01:02
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
- 参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000
『第三話 萩原さんの休日事情』3‐5
ローン何年契約で住めるんだ、と突っ込みたくなるような高級そうな家が並ぶ住宅街。
【町】では見た事のない服や装飾品系の店。
サラリーマンの月給を一日で使い果たしそうな、高そうな料理店。
極みつけは歩けば目に付く、高層ビル。
「……なんというか。ここまでいつも見ている光景と違うと、唖然とするな……」
そんな状況に、私は呆れのため息と共に、ボソッと一人言を発する。
そう、一人言だ。決して言葉を返してくる者はいない。何故なら——
「お兄ちゃんはなんでお姉ちゃんにきつく当たられてるの?」
「いやだなぁ〜、しんや君。あれは愛情表現の一種で———」
「そうなの? 無視するのが愛情表現なの? ほーちぷれいなの?」
「ほ、放置!? どこでそんな言葉覚えたの!」
「お母さんが言ってた」
「お母さん!? なに言ってるのしんや君のお母さん!」
「なんか、ゴキブリほいほいに捕まったゴキブリ見ながら。『しんや、これがゴキブリに対する放置プレイよ』って笑いながら言ってた」
「意味わかんねえよ!」
言葉を返してくれそうな存在達は、さっきからずっとこんな調子だからだ。
まあ、はっきり言って助かっている。
私はあまり子供と話すのは得意じゃないし、その点藤堂は完璧だ。
なにせ頭の思考回路が子供じみているのだから、子供の相手をやらせるのにはもってこいだ。
偶には役に立つな藤堂。いやこれはあいつの手柄では無いな。あいつを生んだ存在の手柄だ。
神様。あいつを馬鹿に生んでくれてありがとうございます。
いや、むしろ親御さんたちに礼を言うべきか?
「なんか失礼な事考えなかったか萩原」
そんな事を考えていた私に、突然、前を歩いていた藤堂が、後ろを歩いていた私に振り返り言う。
お前はエスパーか何かか? よく解ったもんだ。
「いや、特には」
「嘘はよくないぞ? お前今。『子供と話が会うなんて、こいつの精神年齢は小学生か?』とか思っただろ」
「おいおい、それじゃしんや君に悪いだろ? 彼はお前より大人びているよ」
「俺はこんなちっこい子よりも子供っぽいってのか!?」
「僕はそんなにちっちゃくないもん!」
「ああ、ごめんな。そうだよな! しんや君は俺よりおっきいよな! 器的な意味で……」
「器……? お皿の事?」
しんや君は器の意味が良く解らなかったようだ。
藤堂はそれを聞いて、早速しんや君に「器のでかい男」について熱く語り始めた。
そんな光景を眺めていると、なんとも和やかな光景なのだが。それに流されてしまって、忘れてしまってはいけない事が在る。
しんや君は【暴力団】のボスの孫だ。
それがどういう事なのか……。
今はお祖父さんを慕っているが、成長し自らの祖父がどんな人間か知った時、彼の中にどんな変化が起きてしまうのか……。
「お兄ちゃんはすごいなぁ! なんでも知ってるんだね!」
「ああ。俺は何でも知ってるぞ! 女性受けする会話方法以外はな!」
あんな無邪気に藤堂と会話しているしんや君を見ていると、そんな時が永遠に来なければ良いのにと思えてしまう。
っていううか藤堂、自分が女性受けしないってことはわかってるんだな。
もっともこの馬鹿は学校の女子には人気らしいのだが……。
まあ、それは良い。今はしんや君の事だ。
あの子がどんな人生を送るのか、それに私が関与するのはおこがましい事なのだろうが、彼の親かなんかに一言二言いっておく位は良いだろう。
私はそういうおせっかいな人間なのだから……。
ったく、自分で自分がいやになる。
クールでいたいと願っているのに、こういう無駄に暑っ苦しい所が本当に嫌だ。
いつも。もうやめよう、今度はやめようと思っているのに……。
こんな性格だから、今まで色々厄介な事に首を突っ込んできたのかもしれないな……。
「———わら」
あー、でも。これは自分の性分だしなぁ。
いまさら変えようがない事なのかもしれない。実際この性格のおかげで得るものもあったし。
「萩原!!」
「——ッ!?」
ずっと考え事をしていて、藤堂が呼びかけている事に気付かなかった。
最近考え事が多い気がする。こんな感じでうつ病患者って増えていくのだろうか。
「萩原、こいつらお前の知り合い……、じゃないよな……」
「こいつら?どういう意味———」
下を向いて考え込んでいた私は藤堂に呼びかけられ、顔を上にあげることでようやく気付く。
自分たちがいつの間にか人通りの少ない通りに来ていて、今まで見たことが無いような、焦った雰囲気を藤堂が出していると言う事。
「なんなんです、あなた達」
そして、これが一番重要な事なのだが———、
目の前にダークスーツを着込んだ強面の男たちが居るという【非日常】が目の前に繰り広げられている。という事に私はようやく気が付いた。
「あー、ったく。だから迷子には関わりたくなかったんだ……」
私の意思に関係なく。
【日常】に住む私たちを、【街】は【非日常】に連れ込んできてしまった。
とりあえず、こんな状況になって、私が考えた事は。いかにも不自然な心配だった。
あたりまえの心配と言えば、当り前なのだが、如何にも場に不釣り合い。
きっとパニックに陥った人間は、こんなどうでもいい事を考えたりしてしまうのかもしれない。
そう、私がこんな映画のワンシーンみたいな状況に陥って考えた事は。
「ゲームソフト……。壊れないで済むかな……」
という事だった……。