コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.41 )
- 日時: 2011/09/03 01:04
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『第三話 萩原さんの休日事情』3‐6 1/2
「はぁ、はぁ、はぁ。あー畜生! なんだってこんな事になってんだ!」
「しるか! 今は原因究明よりも、安全確保が最優先だ!」
「解ってるよ! 解ってるけど、解らねえよ!!」
余程混乱しているのか。それとも怒りか焦りで思考が纏まらないのか。
藤堂は意味が繋がらない言葉を、意味も無く叫びながら。息を切らして走っている。
かく言う私も現在絶賛逃亡中だ。
思考は藤堂よりは冷静なつもりだが、それでもかなり焦りはある。
それも致し方ない事だろう、なんせ今私たちを追っているのは。
「おいこら糞ガキども!! 止まらねえと、ぶっ殺すぞ!! いや寧ろ止まってもぶっ殺す!」
明らかにこちらに害を及ぼしそうな、【危険度強】の黒服集団なのだから……。
「やかましい! どっちにしろぶっ殺すんじゃねえか!」
「なんだぁ!?——『止まれば危害は加えないよ?』——とでも言って欲しいのかぁ!? 世の中そんな甘くねえんだ、アホガキがぁ!」
「知るかよ! つーかなんだあんた!? 周り何人も居る黒服さんは無言で追ってくんのに、なんであんただけ、ぺちゃくちゃ喋ってんだ!」
「うるせぇ! 喋って悪いか!! 人間に口があんのは、相手に怒鳴り声を届けるためなんだよ!!」
「違う! 愛する人に心の叫びを聞かせるためだ!!」
「大声で叫んだら相手に失礼だ。ついでにそれはアホのする事だと思うぞ」
「なんでそこで、微妙な突っ込みを入れるんだよ萩原!!」
とてつもなく無意味……と言うよりアホらしい言論合戦を繰り広げる藤堂と、黒服の集団のリーダーらしき男。
憤怒の形相で追ってくるその姿は恐怖を与えるのだが、言っている事が余りに幼稚なので段々そんな感情も薄れていく。
「てめえらぁ! マジで、ホント。ちょっと止まろう? な? 俺はもう足がガタガタなんだよぉ!」
『知るか!』
思わず突っ込みが藤堂とシンクロする。
なんだか、このおっさんは全然怖くなくなってきた。どうしよう、これが相手の作戦なのだろうか?
「藤堂」
「なんだ!」
「これからどうする? どこまで逃げればいいんだ?今走っている所がどこだかもわからん! つーかなんだこの人通りの少ない道は! 犯罪の温床地帯か!」
「どこに逃げればいいのかなんて解らない!つーかなんで追われてるんだよ俺たちは!! 知らぬ間に何かしたか!?」
「あー。多分しんや君が【暴力団】の孫だから、敵対組織に狙われてるんじゃないか?その結果付き添っていた私たちが一緒に追われてるんだと思う……」
必死に走りながら、私は藤堂に自分の推測を言った。
すると、藤堂は青ざめた顔でこちらを見ながら。汗をタラタラ流して私に返答した。
「……聞いてないぞそんな話。【暴力団】だと? なんだよそりゃ……」
「言ってなかったっけか?悪い。失念してた」
「……。やばい。すっごく泣き崩れたくなってきた……」
汗と一緒に涙まで流しそうになっている藤堂。
とりあえず気持ち悪いので、視線をそらして。恐らくこの状況の元凶である、少年に目を向ける。
そして、次の光景を見て私は目を見開く事となった。
「うぐっ。ひっ、ひぅ」
目を向けた先では、この事態の元凶。
しんや君が泣いていた。
私の、ゲーム袋を持っていない方の手を必死に握りながら、【暴力団のボス】の孫は震えていた。
ガタガタと震えていた。泣いて怯えていた。
これ以上ないぐらい懸命に走りながら、私の手が自分を守る最後の砦なのかのように強く握りながら、震えて泣いていた。
そうだった……。
いくら祖父が【悪党】だからといって、この少年は只の小さな子供だ。
あんな怖い顔した男達に追われて、恐怖を覚えないはずが無い。
あんな怖い顔で怒鳴り散らしてくる男を見て、恐怖を覚えないはずがない。
ああ、やばい。これはやばいぞ。こんな表情見たら。こんな状況の子を見たら。
理不尽な恐怖に身を強張らせている【人】を見たら。
私は……。
私はっ……!