コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.42 )
- 日時: 2011/09/03 01:06
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『第三話 萩原さんの休日事情』3‐6 2/2
「……いい加減にしろ。このゴミ虫どもが!!」
言ってしまったぁ……。
「———ッ!?」
いきなり立ち止って、自分たちの方を向いて怒鳴った私に面喰ったのか。黒服の男たちは驚きの顔のまま呆然とする。
だが、それもほんの数秒。段々怒りで顔を赤くしていっていくのが解る。
さっきまで怒鳴っていたリーダー格の奴以外の、後ろに控えていた冷静そうな黒服まで、表情を変えて怒りを露わにし始めた。
先程までのどこか抜けた感じの雰囲気を一気に物色して、【異常性】を辺りに漂わせるダークスーツの男たち。
その集団の先頭のリーダ格が私に、底冷えする様な声で言葉を告げる。
「ああ? なんだぁ? おい、女。てめぇ覚悟はできてんだよなぁ?」
「……」
明らかな挑発的なわたしの言葉に本格的に【キレた】のか、青筋を浮かべながら黒服リーダーは言う。
いきなりの空気の変化に、しんや君も、藤堂も茫然としている。
そんな中、私は自身が恐怖を感じている事を理解しながら、目の前の男に再度叫んだ。
「覚悟? はん! それをするのはあんたらだ! こんなちっちゃい小さな子を怯えさせて。あんたら恥ずかしくないのか!」
「何も知らねえガキが何を言う。お前らがそこのガキとどんな知り合いかはしらねぇが。そのガキは【悪党】の孫だぜ? そんなガキをどうしようと誰も責めやしねえだろうがよぉ!」
顔面を【激怒】という言葉が似合いそうな顔に歪めながら。ゆっくりと近づいてくる黒服リーダー。
そんな殺意を滾らせた大人を見て、しんや君同様。段々私も体が震えそうになってくる。
私だって怖い。こんなに自分に明確な【敵意】を向けてくる人間が。
怖い……。
だが、手に伝わる小さな体温がその震えを抑えてくれた。しんや君の小さな手が私を支えてくれた。
私に守るべきものが居る事を、伝えてくれた。
大丈夫だ。
私はこの子を親元に無事届けるんだ。
約束を違えたりするものか!
「……この子が【悪党】の孫だからなんだ?」
「あぁ?」
もう、すぐ目の前まで来た恐怖の発信源の、殺意の視線をまっすぐ受け止めながら、私は出来るだけ力強く。不敵に笑いながら言ってやった。
「確かにこの子はちょっと他の子供とは違うかもしれない。いつか【非日常】に身を置く様な子なのかもしれない。でも、だからなんだって言うんだ。そんな【小さい】事情で、お前らみたいなゴミに追われる理由にはならない」
「おい、いい加減にしろよ? 俺達【イルミナテ——」
「関係ない」
何か言おうとした男の言葉を遮りながら、私は続けた。
「お前たちが誰であろうと、なんであろうと。関係ない! 断言できる。あんた達は【外道】だ。こんな小さな子を追っかけまわして。もし私たちが居なかったらと思うとゾッとする。この子はきっと親元にも帰れず、親は心配して気でも触れていたかもしれない」
「……なんだぁ? まるで自分たちがそこのガキを救えるみたいな言い方だなぁ? オイ」
怒りながら笑うという器用な真似をしながら、黒服リーダーはけらけら嗤って言う。
そんな下劣な言葉を聞いて。私は自分の思いを言葉に乗せて言い返した。
「救える」
「あ?」
「私は一人じゃ無いからな。そうだろ?」
最後の言葉は目の前の外道ではなく、右に居る馬鹿に向けて。
すると馬鹿は茫然とした顔から復帰して、こちらを見ながら、
「よく解らないが。俺は萩原と一緒ならなんだってできるぞ!!」
アホな科白を言った。
だが、その言葉は私に力をくれる。
そうだ、私はこれまで何回もこういう【場面】に出くわしてきたじゃないか。
色んな【依頼】をこなしてきたじゃないか。
しかも今は一人じゃ無い。
藤堂が居る。
なら、何を救えないというのか。いったい何を救えないというんだ。
「いいか良く聞け阿呆共。お前らは私の。私達の大事な【依頼人】に危害を加えようとしたんだ。私たちに『家に帰りたい』という【依頼】をしてきた少年をな。その行動の愚かさを教えてやる」
「は?」
黒服外道リーダーの呆けた声を無視して、私は居丈高にそいつに告げてやった。
今自分が手を握っている少年の震えの原因を取り除くために。
出来るだけ強く。
出来るだけ不敵に。
絶対的な自信と共に自分勝手な言葉を吐きだした。
「私たちは【エコ会】だ。救う事の出来ない【依頼人】なんて、この世にいない!!」