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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.55 )
日時: 2011/09/03 01:10
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐8 2/2

「オイ。オイオイオイ。さっきから黙っていれば、なんだい?僕のことは完璧無視かい?いい度胸だねぇ〜」
ケラケラと口元だけで哂いながら、【青年】は言う。尤も視線は一切哂いの感情が含まれていないが。
「安心しろよ眼鏡。あんたを無視なんてしないさ」
「くはははっ、そいつは僥倖だよ」
敵意丸出しの藤堂の言葉と視線に全く動じず、【青年】はにこやかに哂い続ける。
それに対し、藤堂は、一歩、右足を踏み出した。
「無視できる訳ねえじゃねえか」
「ん?」
もう一歩。次は左足を踏み出しながら、静かな怒気の籠った声で、藤堂は青年に言葉を届ける。
「あんた。いや、そこらに転がっている黒服連中も合わせてよ。一体どんなことしたのか解ってんのか?」
更に一歩。
「今日は休日だってんのに萩原に会えてよ、私服も見れたしそれだけで幸福だったてぇのによ」
続けて一歩。
「なんか成り行きで迷子に出会っちまってよ、いや、それは良いんだ、しんや君はいい子だしな。けど、なんか知んねえけど、黒服の変な奴等に追われるしよ」
駄目押しで一歩。
「そして、最後にてめぇだ。いい加減にしろよ?」
藤堂と【青年】の距離は後七メートルほどだろうか?
それだけの距離になってから、藤堂は足を止めて喋り続ける。
「萩原はずっと怖がってたんだ、なのに無理して強がってよ。馬鹿だよなぁ。普段こいつは俺の事を馬鹿馬鹿言ってるが、こいつの方がよっぽど馬鹿だ」
そう言いながら、藤堂はこちらを振り返り、【青年】では無く、【私】に向けてぽつりと言った。
「馬鹿みたいにお人好しだよ。お前は……」
「……お前が馬鹿とか言うな」
私の強がって出した反論を、藤堂は笑って受け流しながら、また【青年】の方に向き直った。
「そんでそんな素晴らしい【俺】の萩原を怯えさせたテメェは、無視どころか絶賛俺の視線釘付け中だよ。ただし敵意限定な?」
尚もにこやかな笑顔を浮かべる【青年】に、藤堂は雰囲気から一切の【甘さ】を消して、全て【怒り】に染め上げた感情を突き付ける。
「まあ、長々と言ったが、つまり俺の言いたいことはたったひとつなんだよ。本当に単純な事でな?」
そう静かに呟くと同時、藤堂は少し態勢を低くする。
「俺の惚れた女を。俺が生涯愛したいと願っている女を。俺のこの世で一番大切な女を。【萩原琳奈】を……」
そして、次の瞬間。
【青年】に向かって、ただ行きよいよく駆けだした。

「傷つけてんじゃねえええええええええええええええええ!!」