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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.57 )
日時: 2011/03/31 11:01
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐9 2/3


「……」
「痛い、痛い痛い痛いってば! 萩原痛い! 服を掴まないでッ!!」
藤堂のその言葉を無視して、私は目の前の阿呆の服の袖を両手で掴んで、傍に引き寄せる。
その所為で、藤堂は地面に強制的に倒れこむような形になる。
「お前は私の話をきいてたのか?」
「き、聞いてたよ! あれだろ、萩原はあの危険野郎に俺が傷つけられ無いように、あんまりやんちゃするなと言ってくれたんだろ?」
「そうだ」
「それってつまり俺を心配してくれたってことに、なるんじゃないか? って、いたたたっ!」
痛がる藤堂の袖を更に強く掴みながら、顔を睨み付けながら私は目の前の馬鹿の誤解を解くために言葉を発する。
「そうじゃない。迷惑だからやめろって言ってるんだ。お前がどうなろうと知ったことか!」
私の否定の言葉にも全く動じず、藤堂は相変わらず腹立たしい微笑みを浮かべている。
なんだか、アホらしくなってたので、掴んでいた袖を放して、座り込んでいた姿勢から立ち上がる。
すると、藤堂も一緒に立ちあがりながら、路地を出ようとする私の背中に声を掛けてくる。
「素直じゃないなぁ〜、俺の胸でゆっくり泣けばいいのに」
「……」
「怖かっただろう? だったら遠慮なく——」
「……藤堂」
「す、すいません。調子に乗りすぎました」
クルリと藤堂に向き直りつつ名前を呼んできた私に、流石にやりすぎたと判断したのか藤堂は急いで謝罪の言葉を口にする。
私は、そんな焦って顔を青ざめさせている藤堂の方へ、一歩踏み出した。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。もうしませんから!!——って、え?」
藤堂の目の前まで歩いて行った私は、そのままうろたえている藤堂の胸に、

【頭を押し当てた】。

「え、え? は、萩原?」
何が起こったのか理解できてない様子で、藤堂が私の名前を呼んでくる。
私はその言葉に、顔を藤堂のそれなりに厚い胸板に埋めながら応える。
「……お前が言ったんだ。遠慮するなって」
「い、言ったけどさ。冗談だったっていうか、いきなりっていうか。お前がこ、こんなことするとは思わなかったっていうか……」
「知るか。自分の言葉に責任を取れ」
更に強く頭を押し当てていく。
どうせこんな事してるんだ、だったら全部吐き出してしまおう。
自分の今思ってる事、感じてる事。
情けなくてもいい。
私はそんな高尚な人間じゃない。
だから、偶には……。

「……怖かった」
「え?」
「滅茶苦茶怖かった。死ぬほど怖かった」

消え入りそうな声で。
何時もなら絶対に言わないような言葉を。

「黒服の連中も。あの男も。凄く怖かった」
「……」
「お前があの狂った男に向かって行った時も怖かった。あいつに顔を向けられただけで怖かった」

普段なら絶対言わないような【弱音】を。

「……どうしようもなく……怖かった」
「……だったらさ」

私のその言葉に、藤堂はゆっくりと。自らの手を私の頭の上に優しく移動して。
壊れものに障るかのように置いてきながら、少し笑って呟くように返してきた。


「偶には女の子らしくしてみるか?」


泣いた。
その瞬間。
私がなんとか押し留めていた何かが、盛大に爆発して。
とめどなく眼から溢れだした。

「ひっく、えう、こわ……かった。こわかった……ぞ? ぅう……ひくっ」

比喩なく、大泣きした。
こんなに泣いたのなんて、小学生以来だろうか?
私は藤堂の胸に顔を埋めたまま、泣き続けた。
藤堂は、そんな私の頭をずっとやさしく撫でていてくれた。
私が泣きやむまで、ずっと。

「大丈夫。大丈夫だから……」

ずっと、傍に居てくれた……。