コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.59 )
- 日時: 2011/09/03 00:23
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『第三話 萩原さんの休日事情』3‐10 2/2
「大変だったな」
「そーだな」
藤堂の言葉に、私は適当に相槌を打つ。
結局、しんや君は会長と副会長が親元に送り届けてくれることになった。
申しわけない気もしたが、会長が——
『疲れてるだろうから、今日は早く帰った方がいいよ』
——と言って来てくれた為。お言葉に甘えることにした。
もっとも、清水副会長は——
『貸しひとつだからね!! 今度学食おごる事! 答えは勿論オーケーよねっ!!』
——と、会長と雲泥の差の言葉を投げかけてきた。
少しは、会長を見習ってほしい。
別れ際、しんや君には何回もお礼の言葉を言われた。
何度も何度も。
『ほんとにありがとう! お姉ちゃん、お兄ちゃん!! また会おうね!!』
別れ際、しんや君そう言いながら。
力いっぱい手を振ってきた。
「……指きりなんて、久しぶりにしたよ……」
「そだな……」
私は、【約束】をした右手を眺めながら、藤堂の言葉に返事をする。
思い返してみても、今日は本当に【面倒】な一日だった。
いや、まだ、昼ちょっとすぎなのだが……。
今まで経験した事の無いような、目まぐるしい一日だったと思う。
しかも、これが【休みの日】だ。
不幸すぎる……。
「なあ、萩原」
「ん? なんだ?」
私が若干己の不幸に落ち込んでいると、藤堂がうわずった声で話しかけてくる。
右手に弟の為に買ったゲームの袋を持って、プラプラと軽く振りながら、隣を歩く藤堂の言葉に返事する。
「ちょっと【街】を散策しないか? ちょうどお昼時だしさ」
「……」
思わぬ提案に、藤堂の方へ顔を向ける。
今私たちは、【街】から【町】へ帰るために歩いている最中だ。
確かに、ここまで来たのに、すぐ帰るのはもったいない気もするが……。
私は少し思案顔を作りながら、ふと藤堂の方へ顔を向けてみた。
すると、藤堂は表情の読めない固い顔をして、私の返事を待っているようだ。
どうやら、緊張している様子である。
人に告白するときは、あんな勢いよく来たくせに。人を食事に誘うのは緊張するとは、なんとも矛盾した神経の持ち主だ。
だが、幸か不幸か断る理由も特にない。
私は軽くため息をつきながら、眼の前の妙なところでシャイな男の喜びそうな返事をしてやった。
「……まあ、いいけど?」
私のその言葉に、藤堂は一気に顔を緩めて、顔いっぱいに笑顔を広げながら——
「よっしゃあっ!!」
——とか言って、全身で喜びを表現しだした。
大通りで目立つことするな、恥ずかしい。
「これは、もしかしてデートと言えるんじゃないか萩原っ!!」
全く違う。
だが、私は特に否定の言葉を出さず、興奮する藤堂を置いて先にズンズン歩いていく。
「あ、ちょ、待ってくれよ!!」
後ろから、藤堂が走って追いついてくる。
私の隣を嬉しそうに歩きながら、他愛の話を語ってくる。
私はその話に、適当に相槌を打ちながら。
藤堂と【街】のどこを周ろうか。
割と真剣に考えていた。
言っておくが。
これは、【お礼】だ。
【弱音】を吐いた私を、しっかり支えてくれた藤堂に対する。
ほんの少しばかりのお礼。
だから、今日はとことんこの馬鹿に付きやってやろう。
学校も、何の用事もない休日くらい。
そんな【特別な日】があってもいいだろう?
ちなみにその後。
藤堂のおごりの昼食を食べた後、色々【街】で遊んだ結果。
姉から昼食前には帰ってくるという、私の言伝を受けていた母の存在を、すっかり忘却していた為。
夕方に帰ってきた私に対する、鬼の形相の母上の説教は二時間にも及んだ。
弟の為にゲームを買いに行って。
迷子に出会って。
暴力団に絡まれて。
何とか逃げ出してきて、ゴールがこれとは……。
不幸と幸運が混じった。
あまりに特別すぎる【休日】だった……。
———————『第三話 萩原さんの休日事情』了