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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.6 )
日時: 2011/09/03 00:32
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『第一話 萩原さんの日常』1‐3


目の前に麦茶が置かれる。
置いてくれたのは浅木だ、彼は私の知る限り一番気のきく男だ。しかし、残念なことに目の前のモノは麦茶だ。
われらの同好会【地域環境保全ボランティア同好会】便宜上の愛称【エコ会】には日本茶などの高級なモノは無い。
それは同好会には学校側から予算などは振り分けられず、贅沢ができないからである。
そもそも、同好会に予算を振り分けてくれない学校側、つまり生徒会の器量の狭さには遺憾の念がかねてから在り、
「おい萩原、何さっきから無視してるんだ」
チッ、違うことを考えているえば目の前の馬鹿がひょっとしたら消えてくれるんじゃないか?とか考えていたが、やはりというか当然というか、そんなミラクルパワーはこの世には無いようだ。
「いやぁ〜、やっぱり夏の暑さがほぼ消えてきた十月には麦茶だな! なぁ浅木!!」
「え!? は、はい僕もそう思います……」
咄嗟に浅木に振ったがあまり良いリアクションでは無いな。
こいつはアドリブとかそういうのが苦手な男なのだ。
まあ、そういうのを見て楽しむサド気質のある連中には人気らしいが。
「萩原、俺の話を聞く気は無いのか?」
「あ? まだ居たのか藤堂。さっさと帰れ出口はあっちだ」
「ひどっ!」
ったく、面倒な男だな。
仕方ない、ずっと無視してても何も始まらないしな、話だけでも聞いてやるか。
「で? 何の用だ?」
私が投げやり気味に聞いてやると、藤堂は顔を爽やか笑顔に変えてこっちを見てきた。
「おお! 俺の話を聞いてくれるのか萩原!」
「五月蠅い、サッサと言え。浅木も困っている」
「え? 僕ですか? 僕には今の状況が良くわからないんですけど……、そちらの方は藤堂先輩、ですよね?」
「おお、なんだ君! 俺のこと知ってるのか!」
確かにこいつは無駄に目立つからな、学年の違う浅木が知っていてもおかしくは無いだろう。
浅木は藤堂の言葉を聞くと、にこやかな邪気の無い顔で言った。

「ええ、鉄壁無表情だけど美人!! な、萩原先輩に衝撃的な告白をした方ですよね!」

「……」
「……」
私と藤堂そろって黙る。
「え? 僕なんか変な事言いました?」
安心しろ浅木、おまえは変な事は言っていない、変な空気を作りだしたのはお前だがな。
いや、その私に対する印象はやはり変かもしれん。
しかし、もうそこまで広まっているのか。
昨日今日でここまで広がるとは、こりゃ噂好きの新聞部が広めやがったな。
「浅木」
「はい?」
「その話誰に聞いた?」
「え〜〜と、聞いたというか、クラス中で噂になってまして。僕も先輩と親しくさせていただいてる事は皆も知っているので色々聞かれました」
終始邪気のない良い笑顔で教えてくれた。
そうか、ならもう学校中の噂ってことだな……、憂鬱だ。
「ま、まあ、そんなことは良いじゃないか。それより俺の話を聞け!」
良くない。
だが、早くこいつを追いだして落ち着く時間は欲しい。
私は藤堂の次の言葉を待った。そして、
「俺、この同好会に入ろうと思う!」
渋面を作ることになった。
「何故? どうして? どんな理由が合って? もし下らない理由だったらお前に人生で一番の苦痛を与えてやる。例その一、毎日午後六時にかかる無言電話」
「ひい!」
叫びをあげたのは藤堂ではなく浅木だった。
なんでお前が怯える?
「いや、なに。お前俺に朝言っただろう? そのことについてずっと考えていたんだ。おかげで昼飯食うの忘れてしまった」
それは弁当持ちだった場合母親に申し訳ないな。
それは良いとして、私朝なんか言ったっけ?
自慢じゃないが私は記憶力は良くない、かといってテストの成績が悪いわけではないがな。
「おいおい、おまえなんだその『私なんか言ったっけ?』って顔は?」
「私なんか言ったっけ?」
そのまま帰してやってみた。
藤堂は軽くため息をつきながら続ける。
「人の気持ちが解らない奴と付き合うつもりはない!! 的な事言ってただろ?」
ああ〜、言った気がする。思いだしてきた。
「ほえ〜、萩原先輩そんな事言ったんですか?キツイですねぇ」
そうだろうか? 正直に言っただけなんだが。
「だから俺はお前の気持ちを知るためにこの同好会に入ってみようと思う!」
……、納得そういうことか。
「ちなみに、私が此処の同好会に入っていることは誰に来たんだ?」
一様聞いておこう。
「ん? 木内に聞いた」
「やっぱりか」
全く、あの娘は。誰にでも正直過ぎる。
それが良いとこではあるし、そういうのを知らなければ友人なんかやっていないんだが。
「お前の言いたい事は解った、同好会に入るのは自由だ、それを止める権利は私には全くない。だがな」
「?」
「お前が甘い気持ちでここに入るつもりなら、痛い目を見るぞ?」
私はそいつに恐らく初めてであろう笑顔を送ってやった。ただし九〇%は悪意成分だったけどな。