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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.63 )
日時: 2011/04/20 23:36
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第四話 萩原さんと厄介な連中』4-1 1/2


「だからですね、萩原さん。あなた達の事を皆知りたいんですよ! 学校中あなたと彼の関係を知りたい人間だらけです!!」
「……」
沈黙。
「……」
「彼があなたに告白し、更に【エコ会】に入ってからもう一月ほど経ちましたがね! 一向に進展がなかったでしょう?」
「……」
更に沈黙。
「しかぁし! なんと昨日あなたと彼が一緒に歩いている姿を、【街】で見かけたという人がいたんです!!」
「!?」
驚愕。
「あ! その顔!! 聞いたときは信じられませんでしたが、本当だったんですね!!」
沈黙——は流石にもう限界か……。
私は、昼休みに入った途端、他クラスだというのに私の机の前に来て、人の事を根掘り葉掘り聞こうとする女に目を向ける。
好奇心旺盛そうな瞳と私の、恐らく他人からは冷淡に見えるであろう瞳がかち合う。
「……おい。新聞部」
「はい」
私の質問に対して始めて発した言葉に、女は長い黒髪をポニーテールにした髪形を、揺らしながら迫ってくる。
近い、近いぞ。寄ってくるな。
「なんでそんな事言わなきゃならない。貴様には関係ないだろう」
「そんな事はありません!!」
私の拒絶の言葉に、ポニーテール女。
如月 弥生(きさらぎ やよい)はキラキラした瞳で否定の言葉を上げる。
そんな如月のテンションが、私にとっては正直うざったい。
私が机に頬杖を付いて面倒臭そうな態度を見せつけると、如月は若干落ち着きを取り戻しつつ、乗り出していた体を後ろに引く。
尤も、【取材】をやめる気は全く無いらしく、更に質問を続けていく。
「良いですか萩原琳奈。藤堂君は学校でも稀に見るイケメンです。そんな人間が告白した女とその後の展開は、私たちにとっては途轍も無くでかい【ネタ】になるんですよ!」
「答えになって無いぞ。私が藤堂の事をどう思っていようが、どんな関係だろうが新聞部に話す義理は無い」
私の冷めた返答に、如月は言葉に詰まる。
しかし、それも一瞬。好奇心を抑えられない様子の顔を転換させ、意地の悪い笑いを浮かべた悪戯小僧みたいな表情になる。
「じゃあ、【新聞部】としてではなく。あなたの【親友】である如月弥生にも、話す義理は有りませんか?」
……っち、成程。
顔の変化はそういう事か。
全く喰えない奴だ。ついでに言うと、【親友】には余り欲しくないタイプだ。
「……その言い方は汚いんじゃないか?」
私の反論に、如月は意地の悪い笑顔を続けたまま、事もなげに言う。
「あなたが渋るからいけないんですよ。さあ、白状しなさいな琳奈!!」
如月はここ一番のでかい声で、私に迫ってきながらそう言った。



如月弥生。
凛とした雰囲気と、強い意志を感じ取れる瞳。
化粧っ気は無いが、元から整った顔立ちの為それなりに美人だ。
綺麗な長い髪を一つにまとめて縛っており、その印象と相まって活発な女性。といった印象を相手に与える容姿。
ちなみに背が結構高い。体も……スタイルは私より良いんじゃないだろうか。
なんか腹立つな……。
そんな腹立つポニー女であるこいつは、新聞部の部長にして、私の数少ない【親友】でもある。
本来この学校では、高校三年生が部活動や同好会の、部長やら会長やらになるのだが、【新聞部】には三年生がいない。
その癖、一・二年は結構な数の部員がいる為、廃部というわけにもいかず。
二年で一番リーダーシップがある如月が部長と言う訳だ。
如月とは小学生の頃からの付き合いで、高校生になった今でもその関係が切れる様子は無い。
だが、長い付き合いで親友だからと言って、彼女が友人として優良かというと、そうともいえない所が多々ある。
小学生の頃は特に問題ない、活発なのが取り柄の普通の女の子だったのだが。
中学の頃に学級新聞の活動に手を出し始めてから、彼女の【悪癖】が顔を出し始めた。
いや、才能の開花と言ってもいいのかもしれない。
新聞を面白くしたいが一心で、人のプライバシーを暴きまくったり、友人だろうがクラスメイトだろうが、他学年だろうが、【ネタ】の為なら平気で売る女に変貌した。
たかが学級新聞に命がけで【取材】をしていた当時の如月の様子は、今でもよぉ〜く覚えている。
彼女自身はかなり輝いていたが、取材を受ける側は堪ったものではなかっただろう。
尤も、彼女の学級新聞は中々面白く、校内の掲示板に新聞が張られた時は皆でよく見に行ったものだ。
勿論【ネタ】にされた奴以外でだが……。
そして、【新聞】に掛ける情熱は高校に入ることで益々高まっているご様子で、今や彼女はこの高校で。
絡まれると厄介な奴。としてかなり有名だ。
あだ名は【ゴシップポニー】。
曰く、ある事ないこと、噂を記事にして書きたてるポニーテール女。という意味だそうだ。
本人はゴシップなどと一緒にして欲しくないと言っているが、ゴシップ記事を書いてる人たちの方が、お前と一緒にはされたくないだろうよ。
こんな如月と何故自分が【親友】をやってるか、なんてのはもう思い出すのも面倒だ。
いや、覚えてはいるが今思い出に浸る必要は皆無だ。
そもそもこいつは、私が藤堂に告白されたその日の内に、その事を記事にして校内掲示板にでかでかと貼りやがった。
そのお陰でクラスの人間だけではなく、学校中の人間にそのことが広まったわけだ。
浅木が藤堂と初めて会った時、告白の件について知っていたのはそういう事だったようだ。
尤も、予想していたから全く驚きもしなかったが……。そういう奴との出会いがまともであったわけが無い。
如月とよく話すようになったのは、中学の頃からだからな。それまでは、普通の【友達】だった。
つまり【友達】から【親友】になるまで。
そこに私の嫌な過去が詰まっている。という訳だ。
別に全部が全部嫌な出来事だった、という訳ではないのだがな……。
まあそれは今は置いといて。
とにかく、如月弥生とはそういう女だ。
【親友】を面白おかしく記事にしても、罪悪感の欠片も無い。
もしかしたら、将来大物記者になってるかもな。
まあ、恐らくは世間を騒がす迷惑記者としてだと思うが……。