コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.64 )
- 日時: 2011/04/20 23:37
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『第四話 萩原さんと厄介な連中』4-1 2/2
「って、ちょっと琳奈! 聞いてますか!!」
「え?」
どんなに親しい人間にだろうと、形だけは丁寧にしゃべる如月の声が私の耳に届く。
どうやら、多少考え事をしていた為に如月の言葉に反応するのが遅れていた様だ。
私は、いい加減机に頬杖を突くのを辞めて、如月の多少ムスッとした顔を知覚する。
「考え事してたんだよ。で? なんだっけ?」
「はいはい、そういう嘘はいいから、さっさと白状しなさい、白状! 藤堂君との馴れ初めを!!」
悪徳刑事に取り調べを受ける被疑者の気分だ。
実際考え事をしていたのは事実なんだがな。
まあ、それはそれとして、このまま冤罪を掛けられるのは嫌なので、そろそろ事情を話して解放してもらうか。
このまま如月に絡まれて昼休みが終わってしまったら、昼食を取る時間が無くなってしまう。
「わーったよ。そんなに聞きたいなら教えてやるよ」
「いよぉっし!! やっと観念しましたか!!」
飛び上がって喜びを体で表現する如月。
何だこいつ、そんなに藤堂が気になってたのか?
そんなに面白い存在かね、あいつは。
「ではでは、早速食堂に行きましょう!!」
「ああ、そうだな。そうしよ——」
え?
今、なんて言った?
「食堂?」
「さっきから何ボーっとしてるんですか? 食堂ですよ。しょ・く・ど・う!!」
私の呆けた声に対し、如月は何も知らない子供に聞かせるかの様に、大きな口をあけて言う。
いや、食堂って言葉は聞こえていた。
私が疑問に思ったのは、なんでわざわざ移動しなきゃならんのか。って事だ。
「……ここで手早く終わらせれば良いんじゃないか?」
「なぁに言ってるんですか! じっくり時間を掛けてやらせてもらいますよ!」
私の当然の希望を大声で撥ね退ける如月。
つーか、声がでかい。
そんな大きな声出さなくても聞こえてるぞ。
「いや、私は昼は教室で食べる派だしさ。ここでパパッと終わらせれば良いんじゃないかなぁ〜、とか思ったり?」
「そんなのは知っています! ですが私は食堂派なんで、弁当とか持って来て無いんです!」
成程ね。
まあ、だったら……。ってちょっと待てよ。
確か藤堂も食堂で食ってた様な気がする。
そこにこいつを連れていくのは、割と不味い事なんじゃないだろうか?
よし。ここは適当な理由を作って、こいつをここに留める事にしよう。
私はそう結論付け、如月に言葉を並びたてようと口を開く。
だが、私が何か喋る前に、如月はとんでもない事を言ってのけた。
「それに食堂には藤堂君もいますから、一緒に【取材】が出来て一石二鳥です」
……。
お前の情報網は、一体どうなっているんだ。
なんで一個人の昼食場所を知ってるんだ、同じクラスでも無いくせに。
私が軽く如月に対して戦慄していると、視界の隅にニコニコした人間の顔が入ってきた。
「あら、弥生ちゃん。どうしたの?」
にこやかに笑いながら、木内希がそんな事を言う。
木内はそのお嬢様っぽい外見にぴったりの、ピンク色の可愛らしい布の包みに入った弁当を持ちながら。
ふわふわした雰囲気を纏って私達の元にやってくる。
「これはこれは、木内さん。今日も可愛いらしい!」
「ふふっ、お世辞をどうもありがとう。で? 琳奈に何か用事?」
なんだ、このフワッとした会話は。
木内が来た途端に、フワフワ度が急上昇したぞ。
いや、フワフワ度って何か知らんけど。
「ええ、ちょっとした野暮用でしてね。食堂にお誘いしていた所です」
「野暮用?」
木内は如月の言葉に少し小首を傾げて考えていたが、直ぐに何か思い当ったのか苦笑しながら言う。
「もしかして、藤堂君関連かな?」
「ご名答」
如月が何か言う前に、私が言葉を返す。
「だから、ちょっと行ってくるよ。これ以上抵抗しても無駄っぽいしな」
どうせ、こちらに都合が悪い事は大概ばれてるんだ。
だったら、さっさとこの厄介な奴を満足させてお帰り願う事にしよう。
「ふ〜ん。じゃあ、私も行くわ〜」
そうだな、じゃあ木内も来るか……って、なんでだよ!?
「って、なんでだよ!?」
心の声を言語化して、木内に突っ込む。
この流れで、どうしてそういう事になるんだ。
「いや、お前は来なくていいから。ゆっくり皆と、教室で飯を食っててくれよ」
私の言葉に、木内は可愛らしく。しかし、どこか悪戯っぽく微笑みながら言葉を紡ぐ。
「だって、とっても面白そうじゃない? 前から琳奈と藤堂君の仲は気になってたのよねぇ〜。あなたって、男っ気無いし」
やかましいわ。
私が彼氏等を作らないのは、作る必要が無いからだ。
そして、その必要無い存在に藤堂が入る予定も一切ない。
此処まで素晴らしい無い無い尽くしだというのに、何を期待しているんだお前らは。
「ではでは、木内さんも一緒にという事で、参りましょうか!!」
如月がテンションを上げながら言う。
はぁ〜、もういいか。何事も諦めが肝心だったな。
私の愛している平穏な昼休みを過ごす事は、今日は諦める事にしよう。
それが賢明な判断、って奴だ。
仕様がないさ。
私の周りに居る奴等は、大抵の場合。
どいつもこいつも、それぞれ多重的な意味を持ち合わせている。
厄介事の塊なんだからな……。