コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.67 )
日時: 2011/06/13 22:32
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第四話 萩原さんと厄介な連中』4-2 2/2


私がもの寂しい顔をして、もそもそ弁当を消化していると。
隣で私同様弁当を広げていた木内が、弁当箱を覗きこんできた。
「あら、琳奈のお弁当のおかずは肉じゃが?」
こちらの弁当を興味深げに眺めながら、木内が尋ねてくる。
こんな一般的な料理などあまり口にした事のない木内は、どうやら庶民の味を知りたいらしい。
「なんだいるのか? そっちのおかずを何かくれるなら分けてやらんでも無いぞ?」
「ホント? じゃあ、はい」
そういって、割り箸で摘まんで寄越してきたおかずは私の目を疑うモノだった。
「お、おい、こ、これ、もしかして……」
「ん? 唯の茸だよ?」
平然と返してきやがった、唯の茸ときやがった。
こいつは、これは、この茸様は。
「マツタケ……だろコレ……」
思わず呆然と呟いてしまう。
「そうそう、松茸。美味しいよ?」
そりゃそうだろうよ、明らかにいい香りがするし、国産か?
なんなんだこのブルジョワさんは。
木内お嬢様は一体何食って生きてきたんだ。
なんで弁当に茸の最高峰レベルの食べ物が入っているんだ。
お前の平日の昼食は、一般の人間には永遠に手が出せなさそうな究極のメニューかよ。
「さ、肉じゃが頂戴? なんだかすっごく美味しそうで、食べたくなっちゃった」
……。
まあいい。
明らかに松茸とは釣り合わんが、本人が欲しているなら問題ないはずだ。
私は箸で、肉じゃがのジャガイモを掴んで木内の、これまた豪華そうな弁当箱に運んでいく、途中で……。

「ああ!! やんのかコラァッ!?」

べちゃり

『あ』

木内と私の声が重なる。
突如後ろから聞こえてきた大声に、思わず箸がぶれてジャガイモを落としてしまった。
床に無様に崩れたお芋様。
「……三秒ルールを適応致しましょうか、お嬢様?」
思わずジャガイモ様を凝視しながら、丁寧語になって話しかけるが、木内からは反応がない。
もしや怒っているのかと思って、彼女の顔を伺うと。
木内は驚いた表情のまま、私ではなく、どなり声があった方に視線を向けている。
「り、琳奈。あれ、もしかして……」
焦ったように私の肩を叩く木内。
「ん、どうした? 喧嘩か?」
私も木内につられて、椅子に座りながら後ろを振り向く。
そこに居たのは——

「一体俺のどこが下らないっていうんだ!!」
「下らないよ。お前がその女に惚れこんで、行動したとしても。その恋が実ると思ってのいるのか?」
「当り前だろうがっ!!」
「あのなぁ、藤堂。貴様の言っている事は、アホが妄想して、アホみたいに行動している。まさしくアホだ、もしくは馬鹿野郎だ」
「な、テメェっ! アホアホ言うんじゃねえ!! 俺の愛は本物だから良いんだよ!!」
「恋は盲目、愛は浪費。時間も感情もすり減らす愛なんてものに、何の意味がある?」
「すり減らしてねえよっ!!」
「すり減らしているよ。最も今現在は、貴様の大声で周りの人間の楽しい食事時間がすり減っているが」
「なぬ〜!!」

——馬鹿だった。
大声で公衆の面前で、喧嘩をおっぱじめる馬鹿カッコ藤堂カッコ閉じる、だった。
「何してるんだあいつは……」
思わず頭を抱える。
ここには如月も居るんだ。唯でさえあいつがこの場に居るっていうのに、あんな騒ぎを起こしたらどうなる事か……。
つーか、もう隣の席を見たら馬神女はいないとか言うオチじゃないだろうな?
私は恐る恐る、木内とは反対側の、隣の席に座る女に顔を向ける。
だが、
「あちゃぁ〜」
意外にも如月は彼らの方へ特攻をかけたりせず、手で顔を覆って、何か苦悩している様子だ。
「どうした? てっきり、『取材ですっ! なんで喧嘩したのか面白おかしく聞かせてくださいっ!!』とか言って、あの間に入っていくものかと思ったが? アレ、藤堂だぞ?」
「いえ、本当ならそうしたいものなのですが。折角の【エコ会】期待のイケメン新人が喧嘩。なんていう特大スクープが、目の前にあるという奇跡なんですが……」
如月は手を顔から離して、大声で怒鳴り合っている——怒鳴っているのは藤堂だけだが——方を見て、大きくため息をつく。
「残念ながら、藤堂君と喧嘩をしている相手がね……」
「あら、知り合いなのかしら?」
会話を聞いていた木内が、如月に質問する。
彼女の質問に、如月はどこかぎこちない笑顔を浮かべ、応える。
「ええ、知り合いも何もねぇ。あれ、うちの新聞部の——」
喧騒の方を、苦々しげに見つめながら、如月はこちらにとっても面倒な事を。
頭をかきながら告げた。


「副部長なんですよ……」