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Re:    rainy blue...... ( No.16 )
日時: 2010/09/11 17:57
名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)

002


「だ、大丈夫!? 怪我して無い? 足捻って無い? 骨折してたらどうしよう!」
 一人で急におろおろし始めたから、俺はポカンと口を開けたままになっていた。我に返ると、悪戯心が湧いてきて驚かせてやろうと顔を歪めた。小学、中学校演劇部に入っていた実力を思わぬところで発揮することになった。
「ってえ……。腕マジ痛いんだけど」
 明らかに単純そうなその子はえっと叫ぶと腕を思いっきり掴んだ。いや、痛い痛い痛い。
「ご、ごめんなさい! 骨折ってないよね!? え、捻ったの? わーどうしようっ」
 また一人で百面相し始めて、もう笑いを堪えるのが限界に達していた。
「ふっ……あははははっ! ヤベ、こいつウケるわー!」
「ほ、ほえ?」
 その女子はきょとんとした顔で大きい目をさらに大きくした。
「冗談だよ、あんたの反応面白いからさついからかっちまっただけ」
「えー!? もうっ、酷いな!」
 ぷくっと頬を膨らませるそいつとしばらく見つめあっていた。女子がぶっと頬の内側に入った空気を出したのを合図に、弾けたように笑いあった。

 もう、怒りの気持ちは消えていた。


「そういや、名前何て言うの?」
「私? 榎並逢来って言うの。逢いに来るで逢来。貴方は?」
 榎並逢来。それが彼女の名前だった。逢いに来る、それこそ俺に逢いに来たのではないかと思ってしまった。嗚呼、自分の妄想がキモい。うん、キモすぎる。
「えと、俺は神楽奏。奏でるで奏。よろしく逢来」
「……うん、よろしく奏」
 それから少しの沈黙があったけど、すぐに話が弾んだ。


——ガラッ。
「かーなでー! 部活終わっ……って、榎並逢来!?」
 部活終わりの若葉がいつも俺の事を迎えに来る。だけど今日は目を大きく見開いてずかずかと俺の前まで大股で歩いてきた。怒っているような、怯えているような、変な人を見るみたいな。そんな表情をしていた。
「若葉、逢来の事知ってんのか? っておい!?」
 若葉は見かけによらない馬鹿力で俺を思いっきり図書室の外へ引っ張り出した。逢来は驚いた顔をしていたけどそれ以上は見えなかった。

「若葉っ何処まで行くんだよ!」
 校門の前まで来て、俺はやっと若葉の腕を振り払うことに成功した。でも若葉は複雑な表情をしていた。
「榎並逢来の噂知らねえ……よな。お前の事だからな」
「だったら何だよ?」
 若葉はいつもにへにへと笑っているからこんな表情は貴重だ。若葉ファンに渡してあげたいほどだ(居ればの話だけど)。
「榎並、榎並逢来はな——……」
 俺は若葉の真剣な表情に息をのんだ。




       「——暴走族の娘、なんだ」