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Re:    rainy blue...... ( No.23 )
日時: 2010/09/14 20:38
名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)

004


 屋上の扉のノブは錆が付いていた。手に赤茶色の錆が付いたけど構わずにノブを握りしめた。そっと扉を押すとキイイイ、と開けるときに錆が擦れる音がした。

 ——パタン

 案外静かに閉じた扉の音も、今回は大きく聞こえた。

「あ、奏……?」
 透き通るような声が聞こえた。声の主は、今一番逢いたい人。榎並逢来、だった。逢来はフェンスより一歩手前で座っていた。少しほほ笑んで隣に座ると、彼女はゴロンと寝転んで黒い雲が立ち込める空を眺める。
「さっきの私、感じ悪かったでしょ」
 申し訳なさそうな表情とは裏腹に淡々と冷めたような声でそう言った。
「入学してからね、暴走族の娘だとか噂が流れたの。ちょっと黒帯持ってるからって煩いんだよね」
「……うん」
 余計な口を挟まずに静かに聞いた。何か話したら、すべて壊れそうで。
「あ、勿論全部嘘だよ。……ある人との約束でね、『強くなれ、障害にも負けない位』って言われたんだ。とても大事な人だったんだよ。だから」
 一旦区切って額に手を当てて目を瞑った。ふう、とため息をついて淡々と話しはじめた。
「だからね。どんな障害が有ろうとも私は自分の思うとおりに生きる。あの人の為に……そう決めたんだ」
「大事な人、なんだな。そいつ」
 逢来にほほ笑みかけたけど、その微笑みが届くことはなかった。彼女が目を手で覆って静かに泣いていたからだ。
「——っ、ごめんね。もうあの人……には、逢えないんだ」

 もう、逢えない……?

「死んじゃったんだ。『俺の後追って死ぬなよ』なんて、私のしそうなことを見抜いてる。そんなんじゃ、死ねないよね」
「……何か、話させて悪かったな」
 俺がよっぽど気まずそうな顔をしていたのか、彼女は涙をささっと拭って、くすっと笑って起き上がった。
「いいよ。多分、話してないことの方が多いと思うしね」
 じゃあね、と逢来は屋上から去っていこうとした。けど、俺は彼女の手を掴んでいた。今彼女を一人にさせる訳にはいかない。
 今ひとりにさせると崩れさっていきそうで、怖かったんだ。

「なあ、サボらねえ?」
 一瞬ポカンと口を開けた逢来は、にやっと微笑んで頷いた。