コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: rainy blue...... ( No.26 )
- 日時: 2010/09/17 20:49
- 名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)
005
「へーえ? 成績良いからって余裕ぶっこいてていいのかな、学年一の秀才さん?」
「って何で知ってんだよ」
やけに挑戦的に言うので顔を顰めた。逢来が知ってるのも無理はない。成績は上位五十名が廊下に張り出される。一位に俺の名前があったとか、誰かに聞いたらそう帰って来たとかそんなとこだろう。
でも、最初あった時と全然性格が違う。もっとこう、何だっけ。ああそうだ、ほんわかしてる? いや、ちょっと違うか……。
「何百面相してんの。変な人、奏って」
いやいや、お前に言われたかねーよ。俺が変人だったらお前はもう地球上の生物の域超えてんぞ。なんて言えるはずはないけどさ。
「うっせーよっ。それより、お前って友達作らねーの? いっつも一人って寂しくないのか?」
「……んー。ひとりで居たいわけじゃないよ。気が合う人がいないの。奏だって一緒でしょう? 行きたくもないトイレについてったり、愛想笑いして仲間作ったり。そんなの面倒だから中学できっかり止めた。そんだけだよ」
淡々と言葉を紡いでいく逢来に似たようなものを感じた。俺と同じ。他の男子にちょっかいかけられても面倒だし、某アイドルグループでぎゃあぎゃあ騒ぐ意味も分かんねえ。確かに可愛いけど、現実を見ようぜ、って思う。
やっぱ、似てんのかもな。
「俺も、若葉……あ、昨日の奴な。若葉しか気が合わないと思ってる。でも、俺逢来となら友達になれるかもしれない」
「じゃあ私の友達になってくれるの?」
友達。勿論答えは決まってる。
「当たり前じゃん。逢来なら、気が合いそうだし。おもしろいしな」
「本当? やった、ありがと! 私ちょっと奏のこと尊敬してたから、嬉しいなっ」
……尊敬? 何処に? 成績が良いことが?
馬鹿馬鹿しい。取りたくて取った一位じゃないし、成績を下げようと思えば下げれる。けど、それじゃダメだ。〝あの人〟はそれだけでは満足しない。もっとキラキラ光る何かを欲しがる人だ。だから……。
「ってちょっとー? 聞いてるの、奏?」
「んー。ちょっと過去に耽ってた」
おじいさんみたいっ、と突っ込まれたけど俺の心はもう本当に過去に引きずりこまれていた。こうやって、ふとした拍子に過去の扉が開くともうダメだ。自己嫌悪に陥って簡単に扉を閉めることができない。
もう、消えちまいたいな。
「でもさあ、奏って一生懸命に頑張ってて私……」
私、の後はチャイムが鳴ったせいで遮られた。一時間目の終わりの合図だ。逢来は口をきゅっと閉めると、顔を赤らめて早口で言った。
「私は奏のそういう所、すごくいいなって思ってるよっ。じゃあね!」
そして俺が何か言う前にさっさと屋上を駆け下りて行った。暫く呆然と立ちつくす。
一生懸命頑張ってる。
今の俺が一番欲しい言葉だった。そう、すっごくすっごく頑張ってる。強がってるともいうけど、やっぱり人並み以上の努力はしていると思ってる。
誰か、そう誰か一人でもいいから『頑張ってるね』って声をかけて欲しかったんだ。頑張ってるから。
若葉はいつも頑張ってんねと言ってくれるけど、逢来に言われた方が——若葉には失礼だけど——何倍もうれしい。
「あいつ、何者……?」
俺は同じく闇を抱えている孤独な少女に出会ってしまった。これから半年で、一生分の恋をするとも知らず。
これは逢来との出会いから別れまでの小さな小さな話——……。
——第一章end——