コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: planet.blue* ( No.2 )
日時: 2010/09/14 15:16
名前: 沙紀 ◆2G93EKwWG2 (ID: lD2cco6.)


2.たんぽぽフルート


わたしは、あの、フルートの冷たい音色が大嫌い。
だから、もう高校ではフルートを吹かないと決めたんだ。


トランペットのあの眩しい音にひかれて、吹奏楽部に入部した。うちの学校は、吹奏楽に関してはこのあたりでは有名。
そんなバンドで、トランペットを吹きたかった。なのに。

「今から新一年生の担当楽器を発表します」

張り詰めた雰囲気。
こう云う所も結構好き。


「まず、Tpから。
 遠藤晴香、佐々木実亜、明石絵梨、野村夕燈の四人」

わたしの名前は、呼ばれなかった。

「この四人は全員、第一希望を合格です」

部長さんが告げると、先輩たちはどよめきだす。

「次、Fl。
 山本千春、陣内歌奈」

私…。

フルートは、第三希望にも入っていなかったのに。
どうして?



思いどうりじゃないから、と云う理由で部活をやめるのだけは嫌だった。

三年間、頑張って耐えた。


だから——…

もう、フルートは吹かない。


「先輩、高校どこにするんですか?

 フルート続けるんですか?」

可愛い後輩——なのかな。
皆には可愛がられているユカリちゃん。
私はあんまり好きじゃないんだけど。

「んー、考えてるのは、白鷺高校かな」

「えー!
 白高って、夕燈先輩と同じですねッ!いいなぁ、私も白高目指してみよっかな」

ユカリちゃんは先日、夕燈に告って振られた。
それでもめげずにって…漢だな、ユカリ。

「でも、私はもうフルートやめるから。
 夕燈には会わないと思うよ?あいつ、音楽科だし」



——私は—…





もう、フルートは吹かないから。




言っていて、ちょっとだけ胸が痛かった。


「下手だからですか?」

「え?」

「だから、歌奈先輩は下手だからやめるんでしょ?」


何言ってんの、この子!


「そんなこと…」

「じゃあ続けて下さいよ」


いつの間にか、音楽室には私たちだけ。
よく響く壁に、ユカリちゃんの声が反射する。


「私…先輩の音に憧れて、フルートに決めたんです。
 
 フルートなのに、何て言うか、フルートじゃない、みたいな…でもフルートの音で。

 先輩の、そのたんぽぽみたいな優しい音に憧れて、決めたんです。
 だから…
 やめないで下さいよ…」


教室からは、練習を始めた部員たちの楽器の音が聴こえてくる。

冷たいフルートの音は、トランペットの音に潰されてしまいそうだった。

それでも、聴こえた。



——ほんのり、温かい音が。