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Re: やさしくしないで。 ( No.22 )
日時: 2011/01/15 14:24
名前: 三春 ◆OTogeME6uU (ID: mznU1Olg)

「……ん」
 あれ、わたし寝てた?
 視界がぼやける。

 あれ……?
 
 だれかが、わたしのほっぺに触れている……?

「あっ」
 確かめるように顔を上げると、織田が立っていた。
 その驚いた声と同時に、わたしの頬に触れていたものが無くなった。

「……お、だ?」
「ごめん、その……つい」

 今、わたしに触れてたのって織田?


 ごくんと生唾を飲み込む。
 もう寒くなんかないのに、息が震える。


 ——————だめ。
 心臓が張り裂けそう。
 ——————だめ。
 期待なんかしちゃ……ダメなの。

「つ、い……って?」
「だから、その……っとぉ。……つむぎちゃんの寝顔が可愛かったからつい」

 可愛かったから?
 今、織田わたしのこと可愛いって言ったの?


 脹らむ期待。
 
 ……教室にはまだ誰も来ていない。
 
 ……もしかしたら、そんなこと言うんだったら織田も……
 わたしが織田に抱いているような気持ちを、わたしに抱いていてくれるのかもしれない。

 ぎゅっと目をつぶり、声をふり絞る。


「……わたし——————」

 ガラッ……

 ドアを開ける音が聞こえて、わたしはその言葉の先を止めた。

 
 ……和歌山くんだ。
 バッグを肩に乗せて、わたしたちを素通りして自分の席につく和歌山くん。

 よかった……。
 もし、もしあとちよっとわたしの言葉が早かったら、和歌山くんに聞かれてたかもしれなかった。

 ふぅ……っと安心して息を吐くと、織田が続きの言葉を期待しているような眼で見つめてきた。

 今、この状況では言えない……
 言い訳を考えないと……

「……えっと、わたし、わたし……今日寝不足だったんだぁ」
 あははっと笑ってごまかした。

 “好き”
 本当はそう言いたかった。
 だけど、言えなかった。

 本当だったらがっかりしてるはずなのに、なぜか心は落ち着いている。
 

 ……もしかしたら、言わなくて良かったって安心したのかもしれない。



 だって、言ってしまったらこの関係が崩れてしまうかもしれないから。


「そう? 授業中ねんなよ。つむぎちゃん」
 織田はそう言ってわたしの肩を叩いて、自分の席へと戻った。

 触れられたところが……熱い。

 ねぇ、どうして。
 どうして。
 わたしのほっぺなんかにさわったの?

 もう、一生洗えなくなっちゃうじゃん。
 ……どうして、可愛いだなんて言ったの?

 もしかしてわたし、期待しちゃっていいの?
 
 そんなこと言ったら、わたし期待しちゃうよ?
 知らないよ?


 もっと、好きになっちゃうよ?