コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 巫女の少女と命使いと ( No.10 )
- 日時: 2010/09/29 17:55
- 名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: 8Sk6sKy2)
次の日……あの後眠ってしまった俺は、晩飯を食うこともなく学校に向かっていた。
母親は起こしたらしいが、そんなものによって起きる俺ではない。
ククク……あーっはっはっは! どうだ! 参ったか! 貴様らに負ける私ではないのだよ! ……腹減った。
しかし最悪だ。昨日の夕食は聞いてみると、俺の好物ばかりだったからな。偶然って最悪だな……。
今日もそんな感じのネガティブ思考で登校途中の坂道を上っていると、後ろから後頭部に何か固いものが突撃してきた。
「ぶおっほう!」
急なことに対応できず、おかしな声をあげてしまった。
「やあ! おはよう!」
高いテンションで俺に挨拶と一撃をかましてきたのは、我らがクラス会長の茜だった。
「……やっぱりお前か」
「やっぱりとは御挨拶だねえ、まるで私がそういうことしかしない人間みたいじゃないか!」
口からは抗議の遠回しな抗議の声が発されているが、顔や表情はやはり平和で可愛いものだった。
しかし、それでもこのテンションに朝からついていくことは厳しい。
しかも今日は昨日の夕食抜きという、これまたテンションの上がらない事態が起こっているのだ。
このテンションについていけるわけもない。
「あーそうだな。そうかもしれんな。この辺じゃ俺にそんな事をするのはお前くらいのもんだ」
そう言うと茜は「にははは〜」と笑い、
「そうかもねえ〜、悪い悪い、痛かった?」
「いや、別に。気にするようなもんじゃないさ」
「そっ、ならいいや。じゃ、私先に行ってるね。それじゃあ後で」
それだけ言うと、すたこらさっさと俺の元から離れて行った。しかし足速いな、おい。
その後、坂道を登りきり、十字路を通り過ぎ、無駄に長い下り坂を下って、俺は去年できたばかりの学校に到着した。
この学校は去年できたばかりのピッカピカの二年生だ。
校内の設備や校舎の色は去年まで俺が通っていた創立四十年の小学校に比べたら、月とすっぽん並みの違いである。
まったくラッキーだったよ。この学校ができてなければもっと遠い学校に通わされていたからな。
そんな事を、まだまだ真っ白な階段の壁を睨みながら考えつつ、教室についた俺は、またもラノべの鞄に手をかける。
しかし、今日の俺の運命の神様は俺にそれを許してはくれなかった。
「今日は一段とテンション低いね。どうした?」
そう俺に話しかけてきたのはクラスメイトで、俺の親友兼悪友の西屋啓樹(にしやけいき)だ。
さらさらとした髪の毛、フワフワキラキラとした背景効果を付属させているかのような雰囲気、俺よりも若干高い身長、顔面の作りは俺を十乗しても届かないようなもので、端的に説明すれば今流行のイケてるメンズ、略してイケメンって事だ。
こいつと俺は小学校五年からの付き合いで、かれこれ二年ちょい付き合っている計算である。
腐れ縁とは腐れと書いてあるくせになかなか崩れないものなのだ。
「それはこっちのセリフだな。なんで昨日は休んでたんだよ。仮病か? それとも仮病か?」
「選択肢はそれしかないんだね。これでも最近は嘘はついていないと神に誓えるんだよ?」
「それが嘘だろう。お前は嘘を本当に見せるのが巧いからな。その点に関してはプロフェッショナルだよ、本当に要らない能力だけどな。つーか本来はそんなもの持ってちゃいけないだろうがな」
「言葉巧みと言ってくれよ」
啓樹はケタケタと笑い、
「で、僕の質問の返答は?」
「昨日の夕食食えなかったからだ。クッソ、よりにもよって昨日の夕食が餃子と春巻きとは……惜しいことをした」
「どうせ因果応報だろう。もしくは自業自得」
「むっ……」
こいつはなんだかんだで二年も付き合ったためか、俺の思考パターンと行動パターンを予測できるらしい。
今こいつの中では俺の「昨日夕食を食べれなかった理由」のシュミレーションがされたのだろう。
で、因果応報、自業自得という結果に落ち着いたらしい。
確かに俺が寝ちまったのが悪いんだから、合ってるわけなのだが。
「そんなに単純かね、俺の行動パターンと思考パターンは」
「単純っていうより単調だね。行動パターンの変化が無いというか、昔一度行った失敗を繰り返しちゃうみたいな、そんな感じかな」
「……悪意は無いんだな」
「無論」
「そうか……」
こいつは悪意なしで人の心をえぐってくるような奴だから、人が気にするようなことを平気で言ってくる。
まったく困った性格だよ。
俺はこいつと適当に世間話をしつつ、ホームルームが始まるのを待っていた。
するとがらりと教室の扉が開き、神之宮が入ってきた。
「きゃあ! どうしたの、神之宮さん!」
女子の一人が入ってきた神之宮の外見を見て驚きの声をあげた。
神之宮は左腕と右足に包帯をぐるぐる巻いていた。それには赤い色がにじんでいる。おそらく血だろう。
「転んだ」
神之宮はさも痛くないというような感じで自分の席についた。そして何もないかのように一限の準備を始める。
すると「転んだって……大丈夫なの?」「そ、そうだよ。痛くないの?」「病院行ったよね?」等々、女子たちは心配して神之宮の席に集まる。
神之宮は全てに対して対応していた。
「何があったんだろうね? 正直、転んだだけであんな傷ができるとは考えにくいんだけどね。よけいな詮索は無用だけどさ」
隣で心配五十%と知的好奇心五十%の声で西屋が俺に尋ねた。
「さーな、お前が言うとおり、余計な詮索も、心配も無用だと思うぜ。あいつだったら何があっても、ほとんど表情変えずになんでもこなしそうだからな」
俺は正直な感想を述べた。
「百%の同意はできないけれど、大半の部分では同意に値するね。確かに彼女は何でもこなしそうだけど、表情を変えずにというのには若干同意しかねるよ」
「そうかい」
お前の見解なんてほとんど興味ないがなと付け足して、俺担任が入ってくる気配を感じて、鳴屋を席に追い返した。
その後もやはりいつも通りだった。
英語R(この学校は英語がRとGに区分されている)、代数、現文、漢文、理科B(この学校は理科がABに区分されているのだ)、歴史、それぞれの担当の教師が皆一様に神之宮の姿を見て驚いたこと以外はだが。
ま、放課後巻き込まれることを考えたら、いつも通りなんて言ってられなかっただろうけど。