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Re: 巫女の少女と命使いと 参照六百突破です。ミステリー……。 ( No.110 )
日時: 2011/01/15 19:35
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: NhgkHXib)
参照: http://ameblo.jp/mekurumekunovel-blog/

 投げる前に右腕の二の腕に鈍痛が走る。石を全て落とした。驚く暇さえなく二発目が腹に決まる。三発目は頬を掠め、四発目は更に腹に決まり、その後はもう順序を付けられない勢いで飛んできた。
「うぐあっ!」
 唸って憑苦喪神を見ると、先ほど挟むようにした腕を体の前で交差させるように振り切っていて、両腕のチェーンが短くなっていた。
 もしや、あれは振り切った時の遠心力を使って加速したチェーンの一つ一つを分離させ、こちらに飛ばしてきたと言うのか?
 んなアホな。チートだ、裏技だ、必殺コマンドだ。必殺コマンドは正規の技だが。
 言ってる場合ではない、こんなことをしている間にも、憑苦喪神はニヤリと不敵に、見た人全員をイラつかせそうな嘲笑をして——まあ、そう感じただけだが。表情ないし——、振り抜いた両腕を正しい位置に戻すように、体の前で交差させるようにして振った。
 やはりチェーンを分解させて飛ばしてきているという俺の予想は当たっていたようだ。
 先ほど短くなっていたチェーンが幾重もの小さな鉄の輪に分裂し飛んでくる。
 拳を握って、手を前で交差させてはいるが、まともな防御になっていない。何だこれは、もはやろくに目も開けられん。薄眼から見える景色を見ながら俺は対抗策を考えていた。
 どうするんだ、あれは。どうやって対抗しろと? 薄眼から見ている限り、あれは投げたら地面を滑って憑苦喪神のもとへ戻っている。大したスピードで戻るわけではないが、弾は無限だ。燃料切れが無い。
 俺は取り敢えず闇雲に石に生命力を付与して投げることにした。右手を左のポケットに突っ込み石を掴めるだけ掴んで、目を瞑り生命力を付与する。
 加減を考えて、先ほどより少なめに。生命力の付与されたその石はもぞもぞと動き出す。それをサイドスローの要領で投げた。命令を付加して。
「側頭部に当たれ」
 五つの石が空を切り、意思があるかのように弾の間をすり抜けて——まあ実際意思あるのだが——憑苦喪神に当たる。側頭部に五発命中だ。命令は絶対か。
 憑苦喪神は見えていなかったらしく、おそらく不意打ちだったのだろう。上半身を石が当たったところと反対へ倒れさせ、一瞬攻撃がやんだ。まあ石を高速で五つもぶつけられればそうなるか。
 その瞬間を見逃さず、俺は更に距離をとった。目測十五メートルの距離だ。
 憑苦喪神は頭を横にふり態勢を整え直す。勿論、もうあんな不意打ちじみた感じで、むざむざ喰らってやる義理は無い。
 あの攻撃は距離さえ取れば直線にしか飛べないわけだから、比較的容易に避けられるようになるはずだ。
 憑苦喪神は左腕を下から振り上げるようにして弾を飛ばしてきた。チェーンが半分ほど無くなる。それを右に回避した。真横をチェーンの鉄が横切っていく。よし、大丈夫だ。いける。
 憑苦喪神に表情があれば、さぞやイライラとした表情してるなと思いつつ、俺は今までの攻撃から、必死に対抗策を練っていた。

 ——待てよ?

 今までの攻撃にはある不自然な点があった。憑苦喪神はある事をしていないのだ。
 そう、本来ならばもっと簡単に俺に攻撃ができるのにもかかわらずそれをしていない。
 これはしていないというよりも、出来ないのだろう。だから、俺はそこを突かせてもらう事にした。
「…………よし、試してみるか」
 俺は歯を食いしばった。ナイスなタイミングで、憑苦喪神は懲りずにまたチェーン弾丸(命名俺)を打ち出そうとしていた。
 両腕を振って、更に都合のいいことに、全弾を同時に打ってきた。冷静さが無くなっているのだろうな。元々怒りの塊だから冷静も何もないが。
「ナイスな奴だなホントによ。莫迦とも言えるがな」
 俺は脚でしっかりと地を踏み、大地に根を張ったかのように体を固定した。両腕は手のひらを憑苦喪神に向けて開き、顔の前で交差させる。
 そして右手には例の力を発生させていた。
 そして大量の鉄がガトリング銃の様な速度で飛んできて、全身にあたる。そして、そのうち二つが右手のひらに当たった。
 ——今だ——
 俺はその二つの鉄に生命力を付与する。そして小声で「ある命令」を与え、そいつらを地面に落とした。案の定、それは地を伝って憑苦喪神のもとに行く。
「——待ってました!」
 俺はそれを見ると弾丸の中を走り出した。両腕を交差させ、顔面を守った状態で、憑苦喪神に一心不乱に突っ込む。
 すると弾丸は止み、代わりに全てのチェーンが腕に戻っていた。接近してくる俺には弾丸の必要性は無いと判断したのだろう。ま、当然だ。
 俺は左のブレザーのポケットから有るだけの石を取り出した。計五個。
「十分だな」
 俺はそれを右手に持ち、全力疾走をする。
 憑苦喪神は両腕で挟むように、先ほどの映像の巻き戻しなのではないかというほど同じフォームでチェーンをふるった。
 あと五メートル程度の所で振られたそのチェーンは————外れた。
 攻撃が逸れたのではない。「腕からチェーンが外れた」のだ。
 憑苦喪神は驚いたリアクションをとる。が、
「もう、遅えよ」
 俺は右手の石を憑苦喪神の顔面に叩きつける。石が肉にめり込む嫌な感触がした後、俺は石に生命力を与えた。
「こいつの頭に穴を穿て」
 そう命令した石は、全て頭を貫通した。
 頭の後ろから、黒い液体が、放水車から出る水のようにあふれ出てきたのを、俺は眼球の端で捉えていた。