コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 巫女の少女と命使いと 参照八百突破。うん、奇跡です。 ( No.120 )
日時: 2011/02/19 02:40
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: NhgkHXib)
参照: http://ameblo.jp/mekurumekunovel-blog/

 あの後、俺が脳天から人間でいう大量出血を起こさせたあの憑苦喪神は普通に消えたらしく、きちんと鎖も元に戻ったそうだ。
 ゴミステーションで鎖が消えた瞬間を見てしまった不遇な生徒に関しては、既に記憶の消去は完了しており(充さんの手によることは言うまでもない)、鎖についてもきちんと直したんだと。
 因みに、戦闘要員としてはほぼ意味のないの充さんは、このような事後処理に充てられるらしい。
 ところで名前と「充てる」の漢字が同じなのは偶然なのだろうか? そういう一族だから両親がそういう名前にしたのだろうか? そこは神のみが知る領域である。いやどうでもいいが。
 そして、俺は生命力の使い過ぎにより気を失い、回収やら何やらは全て啓樹と充さんが行ってくれたらしい。最近気を失う事が多すぎるよ。マジで。
 能力の使い方については、もう慣れるしかないらしく、これから地道な練習でもしていこうという話になった。ま、その辺は真面目にやらせていただきますよ。ええ。
 で、そういう話になったら、当然俺があいつを倒せた理由について触れられるわけである。

「いや、ホンマにどうしてあんな事が出来たん? 意味が分からへんわ」
「それは僕も知りたいね。なんでだい?」
 俺は上半身を起こし、軽く説明をする事にした。
「簡単な話だ。まず一つ、俺は疑問に思う事があった。それは何でいちいち憑苦喪神が鎖を振ってから飛ばしてくるのかという点についてだ」
「別に不思議でもなんでもないんじゃないかい? 慣性の法則と遠心力で勢いを付ける事はなんら不思議じゃないと思うけど」
 まあ普通に考えればそうだわな。
「だけど思い返してみろ、あいつは飛ばした鎖を全て手もとに戻していた。これを仮に全ての鎖の断片を操って戻したと考えると、あいつは自分の思うがままに鎖を操れる事になる。なら速度を操れたってなんら不思議じゃない。少なくとも、飛ばす方向は変えるはずだ。だが飛ばす時にはあいつは一切速度や軌道を変えたりはしなかった。毎回毎回律義に腕を振ってから飛ばしていたことも相まって、一つ一つの鎖の断片を操れるわけじゃないと推察できる。多分回収は磁石の様な仕組みで回収してたんだ」
 なるほど、と啓樹が納得していた。充さんは「ん? ん?」と言いたげな感じだが、話を進める。
「なら、仮にあいつの腕からチェーンが急に外れた場合、すぐに腕に戻る事は出来ず、かといって外れたそれを操って攻撃する事は出来ない。物凄い速度で腕に戻っていく訳ではなかったからな。だから、俺はあいつの腕からチェーンを外そうと思ったんだよ。あいつの腕にはチェーンが付く出っ張りがあったろ? あそこの根元にあるのが急に外れたら、腕から全部のチェーンが外れる……ってことは考えなくても分かる。だから、あいつが弾を飛ばしてきたときに、二つに生命力を与えて命令したんだよ」
「多分『チェーンの根元につけ』かな?」
 ご名答。
「ま、正しく言うと『チェーンの根元について、俺が三メートル以内に近づいたら外れろ』っていう命令だけどな」
「それで、あのタイミングで鎖が外れたと」
「そういうことだ」
「よく気がついたね、そんな事」
 運がよかったんだよ。
 俺はまだ頭上にハテナマークを浮かべている充さんを無視して寝転がった。どうせあとで啓樹が教えておくだろう。また無機質な白天井が目に入る。
 そんな中、ふと神之宮の事が浮上してきた。
「ところで、神之宮は大丈夫なのか?」
 啓樹にそう尋ねると、少し驚いたような表情をして、
「君が彼女を気に掛けるなんてね」
 と笑った。五月蠅いな。多少は俺にも責任があるんだから仕方ねえだろ。
「彼女はもう大丈夫そうだよ。あの程度の傷なら何度か負った事あるだろうし」
「それはそれで問題だろ」
 まあそれならいいけどな。
「話は変わるが、俺の家族にはどう説明したんだ?」
「自分それ聞くか? 悲しいわー、色々とサポートしてやっとんのに」
 充さんが俺の妹が泣き落しをするときの様な声で泣き始めた。まあ理解しましたよ。
「ちゃんと返答すると、取り敢えず友人と遊んでいて頭を打って気絶したので一旦病院に連れて行ったってことにしてあるよ」
「まあそんなところだろうと思ってたがな」
「じゃあ、そろそろ僕らはおいとまするよ。することもないしね。課題はここに置いておくから、写しておくといい」
「ほな、またなー」
「あ、ちょっと待ってくれ。俺はどのくらいで退院できるのか、まだ聞いてないんだが」
「体力の消耗だけだからね。検査入院ってことで、一日様子を見るってことにしてあるよ」
 二人はそう言い病室を後にした。直後に戻ってきた。
「いやごめん、渡しそびれていた物があってね。ほら」
 そう言って差し出してきたのは一つの石と、数個の石の破片だった。破片にはなんだか薄気味の悪い裂けた口があり、もう一方は何の変哲もないただの石だった。
「それは君が能力を使った石と、使い終わった石を拾ってきた物だよ。何か参考になるかもしれないから、一応置いておくね」
 啓樹はそういうと、今度こそ本当に出て行った。
 俺は啓樹が置いて行った今日提出の筈の英語の課題を見つめて、溜息を洩らしつつ鞄から自分の課題ノートを取り出して写し始めた。
 大嫌いなアルファベットを眺めつつ、同時に機械的に腕を動かしつつ、俺は退院したら如何にして井上を懲らしめてやろうかと思いをはせていた。