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Re: 巫女の少女と命使いと ( No.19 )
日時: 2010/09/26 10:57
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: 8Sk6sKy2)
参照: http://blog.livedoor.jp/yamagutinagaru_novel/archives/951840.html

 世界反転によるとてつもない嘔吐感、浮遊感、方向感覚消失の直後、俺は校庭に立っていた。
 この表現が正しいのかは正直分からない。
 確かに校庭ではあるのだが、全ての景色が一様に色が無いからだ。
 周りを見ると白、白、白の存在。夜の空も真っ白で、白夜という言葉をこれほど明確に表している状況は無いだろう。
 物体の輪郭だけはあるのだがそれの中の色が抜け落ちている。
 しかし、景色はそれでもイレギュラーな存在がそこに二つあった。
 一つは真っ黒な人の形を模しているものだ。
 人の形という表現は正しくない。
 正しくは人の影の様な感じだ。形は人だが、口などの裂け目などは見当たらない、そんな外見の奴だ。
 その影のように真っ黒な存在は、真っ白な情景により通常よりも輪をかけて浮き出て見える。
 もう一つは巫女服を着た少女だ。手には銀色に輝く、古臭いサーベルが握られている。
 この二つのイレギュラーな異分子であり、異端の存在はお互いに戦っているようだ。
 その黒い存在の手にはそいつと同じくらいの大きさの鎚が握られている。
 片方が釘抜きになっている物だ。
 その黒い存在はその鎚を軽々と操り、片手で振り回している。
 黒い方が先に行動を起こした。
 両手で鎚を握り直し砂を弾き飛ばして跳躍し、少女の目の前に移動した。
 少女は相手の右脇の下から降り上げられる鎚をバックステップで避けた。
「っ!」
 その時にここからでも明らかなほど表情に苦痛の表情が浮かぶ。
 同時に右足に血が滲む。傷口でも開いたのだろうか?
 黒い存在はそのまま一歩踏み出して、振り上げた土の反対側——つまり釘抜きの方を振り下ろす。
 少女はサーベルでそれを受け止める。
 ギイィンという金属と金属がぶつかり合う音が白い景色の中に響く。
 少女は力任せに鎚を押し返し、身をかがめて黒い存在の後ろに回った。背後から攻撃を仕掛ける気か?
 だがこれも読まれた。サーベルの一閃が届く前に鎚の柄の部分で防がれ、サーベルをはじき返さる。
 そして、間髪入れずまた釘抜きが振り下ろされた。
 間一髪サーベルで防ぐが、少女の左腕の所に血が滲む。
 こちらも、もとからあった傷の傷口でも開いたのだろう。
 俺はこの瞬間に少女の顔を見て、今まで茫然自失で戦況の解説をしつつただ突っ立っていた状態から、思考回路がまともに戻るきっかけを得た。
 この傷の位置は……それにあのポニーテールは……。
「……神之……宮……?」
 俺はそう呟いた。その直後同じセリフを叫んでいた。
「神之宮っ!」
 神之宮は俺の存在をこの叫びで認知したようで、相手のこっちに首を回す。
 その整った顔には表情があった。「なんであなたがここにいるのですか?」という表情だ。
 この瞬間、神之宮には素人の俺でもわかるほど明確な隙が生まれた。
 相手は隙を見逃してくれるような奴ではない。
 黒い存在は神之宮に右足で足払いをかけた。転びそうになった神之宮は傷ついた左腕でなんとか片膝立ちを維持する。
 が、無情にも釘抜きが振り下ろされる。神之宮はそれを右手で握ったサーベルでガードしようとする。
 刹那、俺は叫んだ。
「違う! そいつはっ——」
 俺の叫びも虚しく、黒い存在は体制を整えるために片手を地面についたため、ガードに隙ができた神之宮の体の左側に蹴りを叩きこむ。
「ぐふっ——」
 神之宮は体をくの字に曲げて一五メートル位ブッ飛ばされた。くぐもった悲鳴が少し聞こえる。
「神之宮っ!」
 俺は弾き飛ばされた神之宮の方に走った。
 吹き飛ばされたときに立った凄まじい砂ぼこりの中に口から血を出し、左腕と右足がほとんど真っ赤に染まった神之宮が倒れていた。
 口から血を吐くってのは相当の衝撃があったはずだ。こんなに飛ばされている事もそれの裏付けになっている。
 怪我をした人間は極力動かしてはいけないという事を聞いたことがある気がしたので、触れない様に声をかけるだけにとどめる。
「おい! 神之宮! しっかりしろ!」
 おいおい、冗談じゃねえぞ、なんだあれは!
 鎚? サーベル? アホか! そんなものを何で持ってんだよお前らは! とっとと廃品回収にでも渡せ! もしくはリサイクルショップ!
 黒い奴は肩を鳴らしながらこっちに歩いてくる。
 やはりあのバカデカい鎚は健在だ。
 こちらに来られたら一巻の終わり。ゲームオーバーだ。
 いや、二次元仮想空間内でのゲームオーバーならコンテニューすりゃいい。
 人生はコンテニューもリセットもちょっと待ったも出来やしない。死んだらそれまでだ。
「くそっ、死ぬのなんか御免だぞ!」
 俺は神之宮がサーベルを持っていたことを思い出す。見ると左脇に煌びやかに輝くサーベルが落ちている。
「……仕方ない、無いよりはマシだ」
 もう黒い奴は七、八メートル位に来ている。急いでサーベルに手を伸ばす。

「それ、触るの待ってください」