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Re: 巫女の少女と命使いと ( No.28 )
日時: 2010/09/26 16:25
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: 8Sk6sKy2)
参照: http://blog.livedoor.jp/yamagutinagaru_novel/archives/951840.html

 決して大きくはないが、不思議と良く通る声が聞こえた。俺はサーベルに伸ばした手を止める。数センチ手前だった。
「それ、触ると崩れてしまうので、触らないでくださいよ」
 もう一度声が聞こえた。俺はそっちに首を回す。
 俺の後ろ——どれくらい離れているのかは分からないが、後ろから聞こえてくることだけは分かる。
 怪物は既にその声が聞こえた方向を凝視している。しかし、誰も居ない。
 視界に入るのは真っ白いノートに鉛筆で描いたような図形だけだ。しかし声は止まない。
「どんなに凝視しても僕の姿は見えないよ。そういう物を使ってるからね」
 鼓膜が震える。怪物はそちらを凝視したまま地蔵になってしまったかのように動かない。
「面倒だね。もう終わらせてもらうよ」
 そう聞こえた。直後、黒い怪物は俺の存在を無視して、その声が聞こえた方に思い切り跳躍する。
 一五メートル……いや、二〇メートルは跳躍しただろう。そして、その鎚を横に薙ぐ。
 それは虚しく虚空を斬るだけ。
 それでも一心不乱、無我夢中で薙ぐ、薙ぐ、薙ぐ。そして虚空を斬る、斬る、斬る。
「必死だね。それでも無理だよ」
 この状況において冷静さを失わない人間は居ない。いや、あれは人間じゃないか。
「じゃ、終わらすよ」
 俺でも分かるほど空気が変わる。
 その声を発している奴は目視することはできないが、明らかに本気になっている雰囲気が伝わってくる。
「我、精霊の理(ことわり)を受諾、承諾、快諾し貴殿の力を行使、我に敵対、反抗、対抗するものを滅す。
我、青龍、朱雀、白虎、玄武、四聖獣の名のもとにおいて、我と共に敵を滅す精霊の名を唱える。
その名は白き稲妻を放つ者……『白雷(はくらい)』」
 今までとは比べ物にならないほど重々しい声が響く。
 そして白い稲妻が走った。
 それも空からではなく、声がした方から——つまり俺たちの後ろから——黒い存在に向かって空気を破裂させながら飛んだ。
 奴は雷を避けようとする。しかし雷を、それも鎚と言う名の金属の塊を持った状態で避けれるはずもない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
 黒い存在は影のように何の凹凸もなかった顔に裂け目を作って、絶叫、そして卒倒した。
 黒いのでよく分らないがおそらく全身が黒く焦げているのだろう。焼けただれている可能性もある。
 黒い存在は倒れたまま、胸から黒いものを垂れ流す。これがこいつの血液なのだろうか?
 違った。
 こいつは流れ出すそれの量が増えるのに比例してだんだんと縮まっていった。
 この黒いものは血液ではなく、こいつを構成している物質なのだろう。だから体が真っ黒なのか。
 そいつは液体を垂れ流し続け、五歳児程度の大きさになると、黒い霧とブラックライトのような光になって消えた。
 俺はそいつが消えたところを見て、茫然と突っ立っていた。