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Re: 巫女の少女と命使いと まさかの参照百突破! ( No.48 )
日時: 2010/10/04 20:46
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: 8Sk6sKy2)
参照: http://blog.livedoor.jp/yamagutinagaru_novel/archives/951840.html

「要するに、あれは神様なんだよ」
 帰り道の上り坂の途中……今神之宮は啓樹の背に背負われている。
 説明を要求した俺に帰ってきた答えは今のものだった。
「神だと?」
「そう神。英語でいえばゴッドだね」
「英語苦手でもそれくらい分かるわ」
 俺は手をズボンに突っ込んだまま坂道を上っていく。
 神父の恰好をした啓樹が背中の神之宮を上に上げ直してから続ける。
「神……と言ってもキリストやブッダやアッラーのような宗教の神になるような存在ではないよ。単純にいえば、八百万の神のような存在だと思ってくれればいい。厳密にいえば違うけど、詳しい事は後で説明するから」
「アッラー……?」
「イスラム教の神だよ。確か唯一神だったような気がするな。アラーとも言う」
「ふーん、って、そんなことはどうでもいいんだよ。八百万の神だと?」
 坂の中腹まで来て啓樹はもう一度神之宮を担ぎ直してから、
「そう、それくらいは知ってるだろう? 全ての物には神様がいるっていうやつだよ」
「八百万の神ね……」
 俺は無神論者で非宗教支持者で宗教なんざ心の底から、果てしなくどうでもいいと思ってる質だからな。
 八百万の神って言われてもピンとこねえよ。知ってはいるが。
「ま、確かに神様ならあんなのを作ったりするのはそつなくやりそうだな」
「あんなのって?」
「あの変な世界だよ」
「あぁ、『間界』か。狭間の世界って書いて間界。神の住む世界の『神界(しんかい)』と、僕たちが今生活している『人界(じんかい)』の狭間の世界のことなんだよ」
「ふーん」
「興味なさそうだね」
「そりゃま、すげえなとか、なんでお前らがそんな事に関わってんだとか、いろいろ問いただしてもいいが、お前はそれに答えるのか? 俺だったら答えないと思うぞ。それに知ったところで俺に関係のある話じゃねえからな。聞けないなら勝手にやっててくれって感じだ」
 こんな会話を続けて丁度坂を登り切った時、俺の隣の悪友は「ははっ」と笑って、

「いや、関係あるよ?」

 俺は立ち止まる。ん? なんつった? ワンモアプリーズ?
「だから、あそこに入ってきたなら、君は持ってるんだよ。僕らと同じ、『神滅者(しんめつしゃ)』の才能を」
 この瞬間、俺は平凡で凡庸で、それでも平和で楽しい世界が、音をたてて崩れるのを感じた。
「……冗談だろう?」
 啓樹は一息ついてから「ふふっ」と笑い、
「僕は、相手をむやみに追い詰めるような、意地の悪い冗談は言わないよ」
「……神之宮代わろうか?」
「媚を売っても無駄だよ? 代わってもらうけど」
 啓樹は止まっていた俺の方を向いてあごで後ろの神之宮を指した。どうやら君が下ろしてくれって事らしい。
 俺は意味が無いなら無視してやろうかとも思ったが、今まで坂を上ってきた事に敬意を表して代わってやることにした。
 背負ってみると、神之宮はえらい軽かった。なんか子供を担いでるみたいな感じだ。
 いや、確かにそんなに身長がある方ではないし、俺に比べたら十センチくらい小さいのだが。
 しかし、何で俺がこんな風になってんだ? 確か変なことに憧れるってのは意味無いんだろう?
「不平等で、不条理で、不都合なのがこの世界の常識」だったんじゃなかったか?
 あ、あってんじゃん。今の状況不平等だし、不条理だし、不都合だし。
「なんで俺がこんなことに巻き込まれてんだ? って顔してるね。ま、当然か」
「行動だけじゃなくて思考まで読めるようになったのかよ」
「行動パターンだけじゃなくて思考パターンも単調だからね」
 うっせ。
 俺と啓樹は登り切った坂を右に曲がり、数十メートル程度歩いた先の十字路に向かって左にある神社に入った。
「ここがあいつの家なのか……」
 それは俺がいつも登校している時に見る神社だった。俺の家もこの近辺にあるってことだ。
「なんとなく予想はしていたが、神社の娘だったとは……」
「確かにそうだよね、僕も初めて来た時は驚いたよ。感嘆符がかなり飛び出てきたね」
 こいつは言うほど驚いてなさそうだな。なんか「へ〜、凄いね〜」とか言ってそうだ。
 こいつが俺の行動を読めるのに、俺が読めないわけがないだろうが。
 俺たちは神社に上がる短い階段を上がり、境内へと足を踏み入れた。
 そこには真新しい神社とこちらも真新しい賽銭箱が置いてあった。
 賽銭箱の横には「お札入れ」と書かれた段ボール箱が置いてある。盗られやしないだろうか、こんな箱に入れたら。
 つーか賽銭箱の中にお札を入れちゃいけない理由は何なんだよ。
「なんでこれってお札と小銭を分けてるんだろうね? 良く理解できないよ。イッツアミステリーだね」
「私にもよく理解できない」
 後ろから不意に声が聞こえた。背中でもぞもぞと何かが動いている。
「気づいたか」
 ここで神之宮が気がついた。
「あぁ、すまない。ここで下してくれと言いたいところだが、正直まだ歩ける自信が無いので運んでもらえるか?」
「流石に俺でも怪我をした女子を放置しておく気は無いさ。そんなに苦でもないしな」
「ありがたい」
 つーか、何でこんなことに巻き込まれてんだろう? 俺はただ——
 そこで俺は本来の根本的な行動理由を思い出した。
「あぁっ!宿題取ってくんの忘れた————!」
 周りの状況に流されて本来の目的を見失っていた事に気付き、深夜近くだと言うのにもかかわらず、その夜の神社近辺には可哀そうな少年の絶叫が木霊した。
 それは、半月が美しい夜だった。